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ホワイトヒート/ホワイトライト
ここは何処だろう。伸び縮みする袋の中でただ待つ。そそり立つヴァイタリティーと、いきり立つアイデンティティーの狭間で。
白い密集の閉塞感に喘ぐワタシは混濁したコンダクターの気分だ。染色体の楽団の士気を指揮する。
蠢く顔の無い同朋の共通項は同胞する遺伝子情報のみだ。
意識のあるワタシは先に漂う。一色の集団から反感を飼う。売られた喧嘩は買う。
生を持ったジャクソン・ポロックの絵画のようなアクションが開眼する。
出入りする分身の振動が響く。張り詰める分針の鼓動が鳴る。いよいよだ。
ワタシの覚悟は、ピストンで昇天する男根のようなピストルに装填する弾魂だ。
ホワイト・ヒート。
さあレースの始まりだ!
目指すは昇る頂点、有頂天、宇宙の一点。何処に? 女王が住むオーガズムに。
ポールから飛び出す! 光の方へ! 解放へ! ポールポジション前方へ! 億万の参加者のこのレースで一位を取らなきゃ意味が無いんだ!
ロケットスタートで真芯から発射される尾を引く白い流線形のマシンたち。ワタシは頭一つ飛び出す、頭一つしか無い体で。
走る、這う、泳ぐ、駈ける、駆ける、翔る。自分の可能性に賭ける。競い抗う、気負い慌てる、みな出遅れる。
爆走する個核に並走する互角。迷走する後核と瞑想する悟核。ワタシは一心不乱に虚空を掻く。陰核の引火区の欲への方へ、卵殻の匂いの奥の方へ。
ワタシには鼻はない、それでもワタシは嗅ぐ。嗅がなきゃいけないんだ。何のため? 生まれ変わるためだ。五体満足の精神を取り戻すためだ!
Xの狐光とYの咆哮が現実の芳香の方向で交差し考査する。
ホワイト・ライト。
やったぞ一番乗りだ! ワタシはゴールの輝きを掴み取ったんだ。
そして王の玉座に進んだ。
今日は特別な一日だ。
けれど勝利の美酒に酔っている暇なんてない。次のレースの開催日は十月十日後だ。今はゆっくり眠って身体作りに集中しよう。
さあ過去の栄光は忘れよう。ワタシは灯りを消すように前世の消去スイッチを押し、床に着いた。
END
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