オトナになる日のこと

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オトナになる日のこと

 ベッドに入り、天井を見つめる。  今日は、いつもより早く布団に入った。  お肌のお手入れも念入りにやったつもりだ。  明日は待ちわびていた、二十歳の誕生日。  大人になるって、どんな感じなんだろう。  日が変わっただけで、大人になれるものだろうか。  それよりも。  明日は、樹が待っていてくれる。  仕事帰りにバーに寄ることになっている。  オーナーの篠原の好意で、貸し切りでパーティーをしてくれるらしい。  そこまでしてもらうのは申し訳ないと一旦は断ったが、店を上げて汐里のことをお祝いしたいと言ってくれた。  樹が口添えをしてくれたらしい。  記念すべき日を、こんなふうに言ってくれる人たちと過ごせることのありがたさ。  そして、何より好きな彼と一緒にいられるなんて。 「樹くんのカクテル、ようやく飲める日が来るんだ……!!」  樹がグラス片手に一歩先のオトナの世界で待っていてくれる。  そんなふうに感じて汐里はドキドキを止めることが出来ないままでいた。  ふと、汐里は布団の端っこをぎゅっと握りしめた。 「告白……するんだもん」  と言っても、初めてではない。  今までに何度も樹には好きだと伝えているのだ。  しかし、樹の返事はいつも曖昧なまま。  あまりにも汐里ばかりが好きだと言い過ぎて、それ以上言っていいのか分からなくなってしまったのだ。  自分の想いだけが、暴走しているのではないか。  樹は笑ってくれるが、それ以上何も言わない。  いや、言えないのかもしれない。  言うと、汐里を傷つけてしまうから。 「ラストチャンス、だもんね……」  ダメならもう、諦める。  二十歳の誕生日、大人になる日を境に覚悟も決めるのだ。  もう一度布団の端をきゅっと掴む。  汐里はそっと目を閉じた。
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