君だけの月

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 閉店後、静かになった店の中で後片付けをしていると、オーナーの篠原が二人に向かって近づいてきた。 「明日は汐里ちゃんの誕生日会だな。樹、十九時前ぐらいに来るって言ってたよな?」 「はい、そう聞いてます」  スマホをズボンのポケットから取り出し、樹はスケジュールを確認した。 「汐里ちゃんもいよいよ二十歳か~。うちの店に堂々と来てもらえる年齢なんだなぁ」  篠原は感慨深そうに腕を組んでうんうんと頷いた。  厨房の方からは、篠原の妻のルミがケーキのデザインを描いた紙を持って嬉しそうに顔を出した。  この店の誰もが明日の誕生日会を楽しみにしているのが伝わってくる。 「喜ぶと思います、しおりん。彼女のために本当にありがとうございます」  ぺこりと頭を下げる樹に、伊織はすすすと近寄ってきて口を開いた。 「『彼女』のために」 「伊織さん?しつこいっすよ!いい加減にしてもらわないと……」  拳に力を入れる樹を見て、伊織は肩をすくめた。
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