君だけの月

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 冷蔵庫からミネラルウォーターの入ったペットボトルを取り出し、ごくごくと飲む。  喉の奥を冷たいものが流れていく。  ふぅ、と軽く息を吐くと、最初から無かったかのように空中に消えていく。  素直に言ったところで、今さら何だと突き放される不安な気持ちが胸の奥にずっしりと溜まっていく。  汐里はきっと笑顔で誕生日会にやって来るのだろう。  バーで嬉しそうに祝ってもらっている姿が目に浮かんでくるようだ。  想像の中の笑顔なのに、何だか苦しくなる。  ベッドに横になってしばらくしていると、うとうとと眠り始めた。 「オレは、このまま……君だけの月でいられるのかな?……って……え?オレ今何を言った!?」  寝ぼけていたのか樹は自分自身から無意識にこぼれ出た言葉に驚き、ガバッとベッドから飛び起きた。  タンクトップの背中がじんわりと汗に濡れているのが分かる。  夜中の三時。  いつもならすんなりと眠りにつくことが出来るのに、今日は変だ。  目が冴え、心臓もドキドキしている。  一体自分はどうしてしまったのだろう。  落ち着かず、寝室から出てテレビをつけてみた。  すると、みなとみらいの特集をしている番組が流れた。  カップルが鐘を鳴らしている音が響いている。  その名の通り、幸せそうな顔で見つめ合っているシーンが映っている。  樹は、画面に釘付けになっていた。  脳裏には、いつぞやのきらきらとイルミネーションの輝く寒い景色が浮かんでいた。  あの日、寒かったけれど、繋いだ手と心だけは温かかったことを思い出したのだ。  リモコンでスイッチをオフにし、再び寝室へと向かう。  カーテンを開けると、月が雲へすーっと隠れてしまった。  照れていると言わんばかりに見えた。 「何だよ、オレみたいじゃん」  ふっと決まりの悪い笑いを浮かべながら樹は呟いた。
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