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君の存在は、酷くて甘くて遠い③
毎日体が重い。自分が認識した頃には、病弱で学校もまともに行く事が出来なかった。
唯一の救いが、親友の康宏と智成の存在だった。病弱で不登校気味の僕の為に、授業の遅れが出ないよう助けてくれた。
高校も二人が進学する高校へ「一緒に行こう」と言ってくれて僕は、必死で勉強し三人で同じ高校に進学することが出来た。
が、相変わらず僕は、病弱でまともに登校出来ずずっと家に引きこもっていた。
そんな僕に康宏が「体調良かったら文化祭来いよ」って誘ってくれた。
文化祭の日、いつもより体調が良く久しぶりに登校した。康宏と智成に、体育館で開催されているクラブ活動の発表会を見に行って俺は、バンド部の演奏に衝撃を受けた。舞台で演奏するエレキギター、ベース、ドラム……僕には、キラキラ光る別世界に見えた。
こんな自分変わりたいと思いながら、いつも自分に負けて、仕方ない体が弱いからで諦めていた。
僕もあんな風になりたい!
強い思いで始めた今の流行っている曲だったり、両親にお願いして買って貰ったエレキギター。そこから音楽の世界にのめり込んで、ある程度楽器も人並みに扱えるようにまでなった。その頃には、病弱で不登校気味の僕じゃなくなっていた。
大学進学の話しなって、音楽系の大学へいくものだと周囲は思っていたみたいだったけど、僕は康宏達と同じ大学へ進学した。
こんな感じでいいかな……
僕は、学食で人気メニューの麻婆丼を食べながらノートパソコンの画面を見ていた。ヘッドホンから流れ曲を聴いてマウスをクリックを繰り返す。最近、本格的オリジナル曲を作り始めて、その曲を流してくれるところも見つかって満足なのだ。が、DJはともかく、接客がどうも苦手だった。
「実留」
「……え? あっごめん。全然気付かなかった」
いつの間に来ていたのか、親友二人僕が座っているテーブルの前に座っていた。
「大学にいるってメッセージ見たからここかなって」康こと熊谷 康宏は、焼きそばパンを一口食べた。
「そうそう、ここか研究室だろうと思ってた」智こと野城 智成は、ノートパソコンを開いて何かを打ち込みながらカフェラテを飲んでいる。
「実留、また新曲作ってんの?」智成は、ノートパソコンのキーボードをタップした。
「うん、もうすぐ完成」僕は、ヘッドホンを外してノートパソコンを康宏と智成の方に向けた。
「マジで?!」康宏は、僕の差し出したヘッドホンをし、ノートパソコンを覗き込んでスペースキーを押した。しばらく聴いて次、智成にヘッドホンを渡した。
「いいじゃん。これ例の店で流すの?」と康が言う。
「……うん」僕は、少し言うのを躊躇った。
「で、憧れの人には会えたん? 俺、実留のDJしてんの見てみたいんだけど」康宏が、少し不満げに言った。
「もう! やーす……」僕は、康宏の口の軽さに項垂れた。
「え?! 何? 憧れの人? DJ? その話し聴いてないんだけど?」智成が不満気に言った。
だって、そうなるじゃん……
「いや……ま、そのうち…」僕は、誤魔化してノートパソコンを自分の方へ戻して電源をOFFにした。確かに、曲は聴いて欲しいけど接客している姿は見られたくない。
「ふ〜ん、ま、いいけど。この曲流す時教ええろよ」康宏は、見えない圧を掛けてくる。
「……絶対言わなきゃいけない?」
「絶対!」康宏と智成が口を揃えて言う。
ええ……
僕は、康宏にDJやるって言わなきゃ良かったと後悔した。
ガタン
僕は、音のした方へ目線をやった。勢いよく立ち上がったのか、椅子が倒れていた。長い手足に高身長、セミロング明るめの髪色。モデル体型ってあんな感じを言うのだろうか。周囲の目線など気にする事なく、倒れた椅子を戻して去って行く。そういえば昨日、正門辺りで女性に引っ叩かれていたのを偶然見てしまった。
どこかで見たんだけどな……
「……あれ、菊理悠じゃん」智成も音のした方を見ていた。
「俺と同じ、食物栄養学部のやつだよ」康宏は、おにぎりを頬張りながら見ている。
「二人とも知ってるんだ」僕は、ノートパソコンを鞄に直して残りの麻婆丼を食べきった。
「知ってるつーか、ちょっとした有名人じゃね? 雑誌のモデルやってるとか、相当遊んでるらしいぜ。あんまいい噂気がねぇけど……ま、噂だけどね」
「へえ…そうなんだ」
そういう智成の情報網は、一体どこからなのか突っ込みどころだけどあえてしないでおいた。
「実留は、憧れの人以外興味ないもんな〜〜」康宏が僕を揶揄うように笑う。
「そんなんじゃないって」
ああ、マジで言うんじゃなかった。
憧れの人なのは間違いじゃない。名前も知らない同い年の男性。もしかして、あの店にいたら会えるかななんて軽い気持ちでアルバイトを始めたんだ。実際、そんな上手い話はないんだけど。
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