君の存在は、酷くて甘くて遠い⑦

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君の存在は、酷くて甘くて遠い⑦

   店主(宇田川)が音楽好きで、ミュージシャンってのもあってクラブGoisuはそういった音楽好きが集う場所。俺もその一人だ。 「あれ? 悠? 俺が誘っても来なかったくせに!」雄大が俺の顔を見るなり絡んできた。俺は、絡んできた雄大の頭をぐりぐり撫でてポイと真琴へ渡した。 「おいっ! おれ犬じゃ〜〜ねぇぞぉ!」 「こいつ酔ってんな。今日来るって言ってた?」真琴は、俺から受け取った雄大をよしよし撫でた。 「なんとなく気が向いたから来た」  確か夜バイトだって……あ…やっぱりいた。  前髪を少し後ろに流し眼鏡をかけていない接客中の瀬織を見付けた。店内にかかるBGMが若干大きいせいか、カウンターの中にいる宇田川と瀬織が耳打ちで話しているのが気になる。  距離が近い…… 「ん? 何見てんの?」横に座った真琴が俺の目線を追った。 「ああ? あれって学食で悠にぶつかったやつじね?」真琴が思い出したみたいな顔をした。 なんでそんなとこ覚えてんだよ…… 「ちげーし」俺は、さっき頼んだカクテルをグイグイ飲んだ。 「ふ〜〜ん…ま、いいけど」真琴は、こちらの顔色を伺うような目つきをした。 「あっすみませ〜ん」 「ちょっ! 真琴!」 真琴は、近くを通りかかった瀬織に声をかけた。俺は、焦って近くにあったメニュー表顔を隠したが…… 「お待たせしました。お決まりですか?あれ? 菊理くん? あ…ああ!」  瀬織は、何かを思い出したみたいに右手をポンと左手に打ち付けた。 「確かに…今、思い出しました。あの時、三人にで来店されてましたね」瀬織は、申し訳なさそうに微笑んだ。 「俺、菊理くんのダチで大野真琴でーす」 「なになに? 知り合い? 俺、佐々木 雄大でーすぅ」 「瀬織 実留です」瀬織は、コンビニで見る顔に貼り付けたみたいな笑顔をした。 「じゃ、実留くんでよろしくね」真琴は、瀬織の手を握って握手をした。  なっ!? 「俺も俺も」雄大も瀬織の手を握ろうとして俺は、雄大の右手をピシっと叩いた。 「いてぇ〜な…なにすんだよ」雄大は、大袈裟に右手を摩った。  気安く触んなよ…… 「もう、いいだろ。オーダー早く言えよ」 困惑している瀬織に、それぞれ飲み物と食べ物を頼んだ。瀬織は、失礼しますといい去っていた。 「悠なんか機嫌悪くね?」真琴が面白がって聞いてくる。 「・・・別に」俺は、グラスに残っていたカクテルを一気に飲んだ。 「悠…ペースはえ〜って」酔っ払ってる雄大まで心配される始末。 「こんなんで酔うかよ」俺は、空になったグラスを指で軽く弾いた。 「悠! おまえ今日手伝えつったろ!」  カウンターの中から、店長こと宇田川が頼んだ飲み物と食べ物を持っていた。 「嫌っす」俺は、プイと横を向いた。 「はあ? おまえはガキか! あ、雄大くんに真琴くんいつもありがとうね」宇田川は、俺の頭をペシっと叩いた。 「いえいえこちらこそっす。反抗期ですかね〜〜」真琴は、俺の頭を撫でた。  誰が反抗期だって? 俺は、無言で頭を撫でる真琴の手を払った。 「悠、おまえ後で片付け手伝えよ!」宇田川は、カウンターの奥へ入っていった。  は、瀬織の憧れの人……  なんで瀬織に、音楽のことなら宇田川に聞けなんて言ったんだ。  俺は、頼んだカクテルをグイっと一気に飲んで、このモヤモヤする気持ちを流し込んだ。
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