君の名は、酷くて甘くて遠い⑨

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君の名は、酷くて甘くて遠い⑨

   休日の二日間は、最悪だった。頭痛と吐き気で目覚め俺は、ベッドから中々起き上がれなかった。寝不足と無茶な飲み方のせいで、過去一の二日酔いになっていた。記憶が曖昧でなんでこうなったのか、思い出せないのがまた怖い。  宇田川に聞くと「雄大くんや真琴くんに礼を言っとけよ。後、瀬織くんには迷惑かけたんだから謝っておきなさい」としか言わなかった。     その後、ここの宿泊料として店の雑用や仕込みまで手伝う羽目になった。  俺は、一体何をやらかしたんだ?  休日明けの月曜日。俺は、学食で日替わりの特大オムライスを黙々と食べていた。そこに、雄大と真琴がやってきて、開口一番に雄大が「この酔っ払い悠ちゃん!あの後大丈夫だったか?つーか、久々悠の酔ったとこ見たわ。やばかったよな」とニヤニヤ笑った。 「うん、アレはやばいよな…つーか人に発動すんの初めて見たんだけど……」真琴は、記憶を辿るように目線を上げた。  なんだよ発動って…… 「ああ、そういわれたらそうかも…電柱とか店の柱?とか……カーネルサーンダーはさすがに引いたわ」雄大は、眉間に皺を寄せた。 「おまえらさっきから何の話してんの?」俺は、若干イラついて二人を睨んだ。 「おまえの話だよ。酔うと抱き付き癖があんの! 覚えてないねぇーの?」険しい顔で真琴が俺に捲し立てた。 「はあ? 俺が?」  ああ……もしかしてあれか……  酔って帰った次の日、たまに自宅に変な置物があって、何かやってんなとは思っていたけど、今回の件については、宇田川と瀬織が話てるのを見たまで覚えている。その後の記憶が全くない。俺の全身からサーっと血の気か引いた。  え? 待て人って言わなかったか? 誰に抱き付いてたんだ? 「……俺、誰に抱き付いてた?」俺は、恐る恐る聞いてみた。 「実留くんだよ! 覚えてないとかやべぇな」雄大は、引きつった顔で苦笑した。    オワタ…… 「マジか……」俺は、頭を抱え自分の酒癖の悪さを呪った。  完全に詰んでるやつ…… 「ちゃんと謝っておけよ」宇田川と同じことを言う真琴。  瀬織に、抱き付いていた時の記憶がないとか有り得ないというか悔しい。いやいや! 悔しいってなんだよ! 「はぁ……」俺は、今日一長いため息を吐いた。 「あの……」 後から声をかけられ、雄大と真琴が振り返った。 「あっ実留くん」  真琴が、今一番会いたくない人物の名前を言った。俺は、咄嗟に机に伏せて寝たフリをする。 「……あ、この前は…ありがとう」瀬織は、真琴に訥々と礼を言った。 「いやいや、みんなこいつのせいだから」真琴は、俺の頭を突いた。  横に座っている雄大が小声で「悠、何寝たフリしてんだよ…実留くん来てるって」俺の肩をバシバシ叩いた。 「そ〜〜だ! 実留くん連絡先交換しねぇ?」 今度は、普段そんなこと聞かない真琴が言い出した。それに便乗するように雄大も「俺も教えてよ」と言う。  はぁ? 「えっと、うん」瀬織は、ぎこちなく笑いスマホを取り出した。  俺より先に、なんでおまえが連絡先交換とかしてんだよ!  俺は、堪らずガバッと上半身を起こした。「俺も!」思ったより大きい声が出て、そこにいる三人が驚いた顔している。 「……え、ああ…はい」若干、時が止まっていた瀬織が、こちらにスマホを差し出した。俺は、慌ててスマホ取りQRコードを読み取った。  瀬織くんの連絡先……連絡先…… 俺は、スマホの画面を見ながらその言葉がリフレインする。あの時、連絡先を聞いとけば良かったと後悔した。 「菊理くん」 「……えっ? はい?」 急に瀬織に呼ばれて狼狽えてしまった。そんな俺を瀬織は、首を傾げて少し笑った。 「これ、この前のお礼」瀬織は、黒猫がロコで入っている小さな紙袋を差し出した。 「え? いや、いいって…俺の方こそ迷惑かけたし」俺に向かって微笑みながら、差し出される瀬織の手を見た。 色々…恥ずくて直視できねぇ……! 「看病してくれたし…おにぎり美味しいから……」  瀬織は、俺が作った普通のおにぎりをそんな嬉しそうに言われたら、可愛いいと思ってしまう。 「…あ…ありがとう」俺は、瀬織からその紙袋を受け取った。 「あっ、いた。実留早く来いよ」いつものメンツの一人が瀬織を呼んだ。 「じゃ、僕行くね」 「……ああ」俺は、頷いて去っていく瀬織の姿を見送った。 「へ〜〜看病って何?」真琴がもの言いたげな目で見こちらを見ていた。 「大した事してねぇって」 「え〜〜俺、悠の手料理食った事ねぇけど」雄大がそこに畳み掛けるように言ってくる。 「うるせぇーな……この前、カップ麺作ってやったじゃん」 「はぁ? お湯入れただけじゃんか…そうゆーの料理って言わねーんてすぅ」雄大は、唇を尖らせて文句を言った。  俺は、絡んでくる二人を適度にあしらって、瀬織から貰った紙袋の中身を確かめた。  透明な袋に、パステルカラーの小さな四角いものが幾つか入っていて、水色のリボンで袋が閉じられていた。  瀬織が俺のために買って来てくれた…… 「へぇ……悠ってそんな顔すんのなぁ」真琴は、頬杖付き、物言いたげな目で俺を覗き込んでくる。  え?? 俺、どんな顔してた? 「はぁ? もう、なんだよ……」俺は、鬱陶しい真琴の視線から顔を逸らし、再び紙袋の中に目線を戻した。 「それ、abri de chat(アブリ ドゥ シャ)ってこの辺で結構人気の洋菓子店じゃね?」真琴は、俺の持ってる紙袋を指差した。   「へぇ……そうなん?」 そんな店あったっけ? 「悠、甘い物苦手だろ? 俺が食ってやるよ」雄大は、俺の手から紙袋を取ろうとした。 「ダメに決まってんだろ」 「え、いいじゃん」 「これは、瀬織くんが俺にくれたんだよ」 「悠のけーち!」雄大は、ワザとらしく膨れっ面をする。 「おまえら、次の講義大丈夫なの?」それを遮る真琴。 「おお?! やべぇ! ヤバいって!悠!」雄大が慌てて立ち上がった。俺も立ち上がりトレーを持って返却口へ持っていった。 「悠! 早く!」 「真琴、じゃな」 「うん、また後でな」真琴は、俺に軽く手を振った。 「へぇ〜〜あの悠がね……」真琴は、学食を出て行く二人を目で追ってニヤニヤ笑った。
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