諦めたのは僕だけだった

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 合コンは、大学の近くにある居酒屋で開かれた。  ざわつく店内と、ざわつく学友だちとは対照的に僕は一番奥の席で静かに座っていた。  食べ物と煙草、そして誰とも知らない体臭が混ざった臭いが鼻をつく。    始まる時間とほとんど同時に相手の子たちはやってきた。  四対四の合コン、友人から聞いていた通りの美人揃いだ。  友人が何とかして合コンを開こうとした理由が、分かったような気がする。  そうして合コンは始まり、テンプレートのような挨拶が始まった。  入り口側の子から自己紹介を始める、やがて順番は僕の前に座っていた子に回って来た。  場を盛り上げようと声を上げる友人たち、居酒屋は喧騒に包まれている。  僕は自分の前に座った子の顔を、まともに見ていなかった。  けれど彼女が自分の名前を告げた時、いやそれよりももっと早く、最初の一文字を音にした瞬間に、僕の前に誰がいるのか分かってしまった。  僕は彼女の顔を見る。  そんなはずがないと叫びたかった、ありえないと言いたかった。  色褪せて、擦り切れて朽ち果てたはずの思い出がそこにいた。  僕はその瞬間、今までよりもずっと強く自分が矮小な人間だと思わされた。  ああ、諦めたのは僕だけだったんだなと。  君は僕に気付いた。  そして君は見た事のない色の笑みを僕に向ける。  君は帰ってきたんだ、鮮やかな罪悪感と共に。 
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