諦めたのは僕だけだった

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「私……手紙かくから! 絶対に病気を治して戻って来るから! だから……私を忘れないでね……?」  そう言って君は泣いた。  泣き顔を見るのは初めてじゃない、ひどい喧嘩をした時も泣いたし、滑り台から落ちた時も泣いた。  けれど今の泣き顔は、今までで一番ぼくの胸を締め付けた。  君は僕の手を握って泣き続ける、鳥の羽みたいに軽い君の冷たい手は僕の無駄に温かい手を握る。  僕の熱を君にあげる事ができたら、そんな事を考えながら僕は泣いた。    そして僕は君の所へ行くことをやめた。  話をしてから君が別の病院に行くまでの一週間、僕はただの一度も君の顔を見なかった。    ドラマや映画の登場人物なら、きっと君に寄り添って、手紙を書いて、遠くの病院にだって会いに行くんだろう。    でも僕には無理だった。  元々きつかったんだ、君に会いに行くのは。  会いに行くたびに細くなっていく腕、やつれていく顔、時折見せる苦しそうな表情、生気を失っていく肌の色。  僕の頭の中にいる君が、あの素晴らしい時間を過ごした君が朽ちていく事に僕は耐えられなかった。  先生や看護師の人たちもこそこそ話をしていた、君がそう長くないって。    卑怯、薄情、腰抜け、僕を責める言葉は山のようにあった。    でも僕はそれを受け入れるしかない。  小学生の僕には、君の死を見届けるだけの覚悟が無かった。  あの時の僕は、君の事を諦めてしまったんだ。
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