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傷痕。
「お茶のおかわり、いる人?」
「今度はアイスティーをいただけますか」
「うむ。このどら焼きというノも美味だナ」
「よーし、俺もとっておきのを出すぜ」
なんで、懐からかき氷が出てくるんだよ。
もしかして、酒天童子も無限収納持ちなのか?
猫達や魔王サマの酔い(またたび)が冷めるまで、私達にはなすすべもなく。
仕方がないので、ぼろぼろになった大量の札を貼った扉の前でお茶を飲んでいた。
封印しているせいか、部屋の中からは物音一つ聞こえてこない。
まぁ、酔いが冷めたらよつばが「解除」するだろう。
ばたばたばた、と廊下の向こうから慌てたような足音が聞こえてきた。
ん? 誰か気がついたのか?
狼の耳としっぽがついた人型の獣人さんが走ってきた。
肩には小人族の王女であるリリスが乗っていた。
以前は護衛がリリスの歩幅に合わせていたらしいが、私がりゅうたろうを肩に乗せているのを見て、合理的だと採用したらしい。
りゅうたろうの場合、本当は自分で歩いた方が早いけどな……。
「何があったのですか!?」
リリスは顔色を変えていたが、私達がお茶しているのを見て首を傾げた。
「えーと、本当に何があったのですか……?」
んー、何から説明するべきか。
「今、猫達と陛下達が酔っ払ってんだよ」
「酔っぱら……?」
「部屋から出せる状態でもありませんでしたから」
大量の札が貼られた扉を見て、リリスはさらに首を傾げた。
「あー、お城の人達が倒れているのはくぅとチャビがやった。ごめん」
あ、でも、無傷だから、と私が言うと、リリスはしばらく頭を抱えていた。
ぶつぶつとなにやら口の中で呟いているが、よく聞こえない。
リリスを肩に乗せている狼耳の獣人さんの顔がひきつっていたから、聞こえなくてよかったのかもしれないが。
「何か分かりましたか?」
ヴラドがリリスに近づく。
落ち着いているように見えたが、たずねる声が硬い。
さらわれたエリザベートの居場所の手がかりがないから、当たり前なのだが。
あの裏切り者が気がついたところで、あの様子では素直に白状するとも思えない。
いや、よつばの「魅了」を使えば……?
せりの「気配察知」は、こちらに害意のあるものか、私達の知り合いにしか、あまり効果はないしな。
んー……。
私が考えていると、リリスがため息をつくのが聞こえた。
体のわりには、大きなため息だ。
気持ちを切り替えたのか、リリスは顔をあげて言った。
「〈傷痕〉を見つけました」
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