初耳です。

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初耳です。

「規模は?」 「世界、かと」 「世界!? んなでっけぇやつ、なんで今まで見つからなかったんだよ!」 「向こう側が隠していたものと思われます」 ……んー、会話に置いていかれているな。 「あのー、〈傷痕〉ってナニ?」 私が口を挟むと、ヴラド達の視線がこちらに向いた。 「ご存知ないのですか?」 リリスが首を傾げる。 「初耳です」 「つかさ殿も、てっきり〈傷痕〉から来たと思っていたノだが」 ん? どういう意味だ? 今度は、私が首を傾げた。 「そうですね……。この世界には、ほかの世界から人や物が渡ってくることはご存知ですか?」 「うん。それは知っている」 「では、どのようにして渡ってきたのかは?」 あー、それは考えたことなかったな……。 私が首を振るのを見て、ヴラドは小さく頷き言葉を続けた。 「突如として、世界と世界をつなぐ裂け目のようなものが現れ、そこから渡ってくるのです」 裂け目……。 「それが〈傷痕〉?」 「いえ、正確には違います」 「普通は一瞬なんだよ。だから、本人も気づかないうちにこっちに来ている」 ヴラドのあとをついで、酒天童子が言った。 ああ、なるほど。 つまり、〈傷痕〉というのは、世界の裂け目がずっと存在している場合のことを言うのか。 それの規模が世界ということは……? 融合する? いや、フードをかぶった連中のやり口から考えると。 「……侵略しようとしているのか」 私の言葉を聞き、酒天童子がため息をついた。 「やっぱ、そうだよな」 おそらく、自分の一族を裏切ったあの吸血族の男は、侵略後の地位を確約されていたのだろう。 そうなると、さらわれた獣人達や人魚達は。 「サンプルか……」 私の言葉に、ヴラドは顔をこわばらせた。 んー、エリザベートはおそらく人質だと思うが。 私が見た限りでは、フードの連中は人間に近い感じだった。 獣人達のような亜人は、向こうの世界にはいないのかもしれない。 侵略するつもりでいるなら、こちらの世界の住人を研究するだろう。 鬼族や竜人族に被害がなかったのは、初期の段階で返り討ちにあった可能性がある。 吸血族にも、何かあったかもしれない。 ということは、だ。 「……俺らんとこや、ジークフリートのじいさん達のところにも、向こうと通じているやつがいるかもしれないってことか」 「その可能性は高いですね」 「わりぃ、俺らはいったん自分の国に帰るわ」 「私はリリスと詳しい話を」 ヴラド達が私を見た。 はい、はい。 「ここは、私が見てるから行ってきて」 どうせ、猫達がいなければ戦力外だしな……。 私は、新しいお茶をカップにそそいだ。
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