猫の恨みは恐ろしい。

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猫の恨みは恐ろしい。

私はため息をついた。 これで、何杯目のお茶だ? お腹がたぷたぷしてきたぞ……。 ぼぅっ、と扉に貼られていた札が燃え上がる。 やっと終わったか。 私はお茶セットを無限収納に入れ、扉を開けた。 中は、さぞかしヒドいことになっているんだろうな……。 案の定、部屋中に猫の抜け毛が飛び散っている。 一部は、ブエルのたてがみか? 「……ん?」 おや? 思っていたよりましだな? というより、抜け毛が飛び散っている以外に、部屋が損傷している様子はない。 猫達は思い思いの場所で、毛繕いをしている。 チャビは、私の顔を見るとごろごろとのどを鳴らしながら近づいてきた。 ああ、なるほど。 チャビはまたたびに酔っぱらうと、甘えてご機嫌になる。 本人(猫)が無意識のうちに「回復」を使い続けたのだろう。 酒天童子の札のおかげで、部屋の外には影響がなかったようだし、まずはよかった。 私も、弁償しなくてすんだしな……。 それよりも、こっちをどうするかが先か。 私は床に転がっている魔王サマとブエルを見て、ため息をついた。 見たところ無傷だし、服装も乱れていない。 わりと早い段階で脱落したのだろう。 二人ともぐっすりと眠り込んでいる。 チャビの「回復」は副作用として、ごろごろという音を聞いているうちに、みんな眠ってしまうのだ。 暴走すれば、異常な速度で若返ってしまう。 赤ん坊にまで戻り、記憶を失った例もある。 私や猫達は免疫があるから大丈夫だが、魔王サマ達は若返ったりしてないだろうな。 んー、多分、大丈夫……か? 魔王サマ達の顔をしげしげと見つめてみたが、若返っている様子はない。 いや、でも、魔族って寿命が長いんだよな……。 まぁ、考えても仕方がないか。 二人が目を覚ませば分かることだ。 それよりも。 私はベッドに眠る吸血族の男を振り返った。 「……ヒドいな」 ずたぼろとしか言いようがない。 髪も服もぐちゃぐちゃに乱れ、顔中傷だらけだ。 おそらく、体の方もひっかき傷だらけだろう。 もしかすると、青アザもできているかもしれない。 いや、うん。 うちの猫って怖いな? 私はごろごろとのどを鳴らすチャビを撫でながら、天井を見上げた。 チャビの「回復」は範囲内の人や物を無差別に回復するはずなのに、犯人にだけ適用されなかったようだ。 そりゃまぁ、くぅに襲いかかったようなやつだし、仕方ないことだとは思うが。 やはり、猫の恨みは恐ろしいということか。 私はチャビの顔を見た。 何が一番怖いかといえば、この可愛い生き物が、それをやったということだけどな……。
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