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迷いの森。
魔王サマとブエルが、目を覚ました。
ずたぼろの自分達に驚いていたが、猫達がまたたびに酔っぱらって暴れていたと聞き、さもありなんと納得したようだった。
「……」
うん。真相は、私一人の胸におさめておこう。
コハクが、得意気にピィピィ鳴きながら魔王サマ達の回りを飛んでいる。
やめなさい! バレるでしょうが!
やはり目を覚ましたドライアドの薬師に癒してもらうと、私達は〈傷痕〉へと向かった。
うっそうと繁った森。
ヴラドの城の近くにあった森とは違い、薄暗い感じはしなかった。
花が咲き、明るい雰囲気の森だ。
だが、せりやブエルは顔をしかめている。
嫌な感じがするらしい。
「……鳥の声がしないな」
魔王サマが呟いた。
言われてみれば、確かにそうだ。
明るくて綺麗な森なのに、鳥の声一つ聞こえない。
それが、かえって不気味だった。
せりがひげをぴくぴくさせながら、私達の前を歩く。
右に曲がったり、時には後戻りさえした。
んー、何か手順のようなものがあるのか?
ヴラドがため息をつく。
「……本当に、たどり着けるのでしょうか」
せりを信じなさい。
まぁ、妹がさらわれているのだから、不安になる気持ちは分かるが。
次の瞬間、ヴラドの姿がかき消えた。
「ヴラド!?」
「どこだ! 返事をしろ!」
だが、ヴラドの姿はおろか、声さえ聞こえてこない。
ブエルの肩に乗っていたリリスが、小さく首を振った。
「こうやって、一人ずつはぐれていったのです」
なるほど。これが〈結界〉の力か。
よつばに「解除」してもらうと、相手にバレてしまいそうだから止めていたが、少し考えた方がよさそうだ。
「せり、少し待って」
さて、どうするか。
……ん?
せりが、じっと右前方を見ている。
「気配察知」のスキルを持つせりには、当然正しい道が見えているのだろう。
だが、私の肩に乗っているりゅうたろうも、魔王サマの隣にいるブエルも、せりと同じ方向を気にしている。
「……」
そういえば、最後は獣人の勘に頼ったとリリスが言っていた。
んー? つまり、この〈結界〉は本能には作用しない……?
ああ、そういうことか。
「迷うな! 迷うぞ!」
「は?」
「え?」
私が思わず叫ぶと、みんな首をかしげた。
この〈結界〉は、おそらく精神に作用するタイプのものだ。
本当に大丈夫なのか? この方向で合っているのか?
少しでも不安に思った瞬間に、〈結界〉が発動する。
猫達や獣人は、おのれの本能に従う。
そこに迷いはない。
だから、〈結界〉の効果がないのだ。
私の場合は、猫がこっちと言ったら従うしかないと最初からあきらめているので、多少違うのだろうがな……。
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