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救出。
激しい風が吹き荒れ、雷が落ちる。
稲光の中、小さな影が縦横無尽に駆け回る。
飛び交う断末魔の声。
んー、阿鼻叫喚とはこういうことを言うのか。
まぁ、それはさておき。
捕まっている獣人達を助けないとな。
そう言うと、あんぐりと口を開けて猫達の様子を見ていた魔王サマ達も、はっと我に返ったようだった。
見張り役なのか、檻の近くにわずかに残っていたフードをかぶった連中は魔王サマがあっという間にひねりあげた。
魔王サマのことは勝手に魔法系だと思っていたが、腕っぷしも強かったのか。
「皆のもの、遅くなってすまない」
魔王サマが声をかける。
ネコミミを隠すためにフードをかぶっているが、その声で魔王サマだとみんな気がついたようだった。
「魔王様!」
「助けにきてくださったのですか!?」
彼らは歓喜の声をあげたが、もがれた翼や抜かれた牙のあとが痛々しい。
「鍵は……」
「大丈夫です」
どうせ、あいつは早々に戦線離脱しているに違いない。
「よつば!」
人魚の水槽にそろりそろりと近づいていたよつばが、私に声をかけられてびくっとした。
あんた、どさくさに紛れて人魚にちょっかい出そうとしていたな……?
というか、前から思っていたが、生きた人魚にそのままかぶりつくつもりなのか?
そんなエグい食事シーン、見たくないからな!
「に、にあん?」
くりんと首をかしげ、あざとさ全開でよつばはごまかそうとしている。
私は、はぁとため息をついた。
「よつば、『解除』」
よつばが前足をちょいちょいと動かした。
がちゃん、と音を立てて檻の扉が開く。
動けるものは自ら檻を出て、魔王サマのもとへ駆け寄ってきた。
「魔王様!」
「ブエル様! リリス様!」
私は、檻の中に残っている何人かの獣人の様子を見に近づいた。
おそらく馬の獣人と思われる女性は足に傷があり、立ち上がることができないようだった。
足の腱を切られたのか……?
「魔王様!」
そこへ、森の中ではぐれたヴラドが追いついてきた。
「エリザベートは!?」
ヴラドが血相を変えて叫ぶが、黒い翼の生えた小さな女の子の姿はどこにもなかった。
「あ、あの……」
馬の獣人の女性が、おそるおそる声をあげた。
「吸血族の女の子なら、連れていかれました」
そう言って、〈傷痕〉を指差した。
「!」
すでに、向こうの世界に連れて行かれてしまったのか……。
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