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嫌な予感。
せりが、ひげをぴくぴくとさせながらゆっくりと歩いている。
いつもより、ずっと用心深い。
まぁ、仕方ない。
私もせりもエリザベートに会ったことすらないからな。
一応、兄であるヴラドと似た気配を探るようにせりにはアドバイスしたのだが。
猫達やコハクの様子を見る限り、異世界からの影響はなさそうだ。
まぁ、コハクはともかく、猫達は私の異世界転生に付き合って元の世界から移動したあとも、好き放題に遊んでいた連中だしな。
見つけるのが、どれだけ大変だったか……!
「……」
私は砂の中に埋もれる残骸を眺めて、ため息をついた。
この世界は、やはり滅びかけているのだろうか。
〈傷痕〉を隠していた森の中を歩いていた時と同じように、まるで生物の気配がない。
うちの猫達は何度も世界を滅ぼしかけたが、私が止められなかったら、こうなっていたということか……?
それにしても歩きにくい。
砂で足を取られる。
一応、身体能力強化スキルを持っているのだが。
それに比べて、猫達はひょいひょいと身軽に歩いていた。
せりがゆっくりでなければ、おいていかれたかもしれない。
「……嫌な予感がするぞ」
今、よつばが人魚の気配をかぎつけたら……。
「にあん! にあん!」
突如として、よつばが声をあげた。
ひどく興奮して、目の色が変わっている。
ああ、やっぱりか!
よつばはわき目もふらず、走り出した。
なぜか、ほかの猫達もつられてよつばと一緒に走り出してしまった。
まさか、あんた達まで人魚を食べようとしてないだろうな!?
追いかけようにも、砂に足を取られていつものようには走れない。
「待ちなさい!」
しかし、待てと言って聞くようなら、それは猫ではない。
私は、あっという間に猫達においていかれてしまった。
コハクだけが、私の上空をゆっくりと旋回している。
まぁ、コハクがいるならナニかに襲われることもないだろう。
砂の上には猫達の足跡が残っているから、それをたどっていけば追いつける。
「頼むから、よけいな騒ぎを起こすなよ……」
だが、まぁ、嫌な予感ほど当たるというしな……。
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