人は見かけによらない。

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人は見かけによらない。

しばらくすると、エリザベートは泣き止んだ。 黒いレースのついたハンカチを取り出して涙をぬぐった。 「取り乱してしまって、申し訳ありません……」 恥ずかしそうに言うエリザベートに、私はにやっと笑ってみせた。 「ヴラドには、言わない方がいいかな?」 「意地悪な方ですわね!」 むぅっ、と口を尖らせてエリザベートが言う。 連れてこられたほかの獣人達を励ましていた、ということから本来は勝ち気な性格なのだろうと思っていたが、私の読みは正しかった。 調子が戻ってきたようだ。 まぁ、いきなり異世界に連れてこられたあげくに檻に閉じ込められたりしたら不安になるのも当然だがな。 んー、しかし、どうやって檻を開けたらいいのか? エアラに確認したが、やはり鍵は持たされていなかった。 よつばは、どこかに行ってしまったままだしな。 「檻のまま、無限収納に入れるか……?」 人間が居住するには居心地がいいとは思えないが、コハクはしばらく無限収納で暮らしていたし、まぁ、なんとかなるだろう。 「何か、食べるものはお持ちかしら?」 「ん? お腹すいてるの?」 そうたずねると、エリザベートは小さく首を振った。 「血を抜かれてしまって、力が出ませんの」 「……」 そういや、吸血族は血に魔力が宿っているんだったな。 前に、魔族さんをフラーの群れから助けた時に分けてもらった魔作物が、まだたくさん残っている。 無限収納からつやつやのオレンジ色の実を取り出し、エリザベートやほかの獣人達に渡して回った。 「美味しい……!」 かぶりついた獣人達が顔を輝かせた。 「ここに連れて来られてから、やたらと腹が減って……」 「いや、あの子達がちゃんと食べ物は分けてくれていたんですが」 そう言いながら、獣人は夢中で食べている。 ふと気づけば、エアラがじっとこちらを見ていた。 「……」 あの目には覚えがある。 猫達が、保護する前のうちの猫達が、あんな風に私を見ていた。 「せり。これ、エアラが食べても大丈夫かな?」 ふんふんとせりが魔作物の匂いをかぐ。 ぴしっと胸を張り、高い声で鳴いた。 「にゃあ!」 大丈夫なようだ。 「エアラも食べて」 「え、デも……」 「ここまで、連れてきてくれたから」 私がそう言うと、エアラはおそるおそる魔作物を手に取った。 用心しながら、口元に持っていく。 やはり、お腹がすいていたのだろう。 「美味しイ……、美味しい……!」 がつがつと夢中で食べ始めた。 「力が戻ってきましたわ」 その言葉に振り返ると、エリザベートがにやりと笑ってみせた。 彼女が檻に手をかけると、鉄らしき素材の棒がまるで冗談のようにぐにゃりと曲がった。 「……」 ……は? 黒いとはいえ、ひらひらの魔法少女みたいな服装なのに、まさかのごりごりのパワータイプなのか!?
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