魔力。

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魔力。

「あ、あの……」 私とエリザベートがぽかんとしていると、金髪の美少女が困ったように首をかしげてみせた。 「これ、美味しかったカら、たくさん食べてシまったけど、ダメでしタか……?」 彼女は両手で大事そうにオレンジ色の魔作物を持っている。 エアラ、だよな……? んー? どうなっているんだ? お腹いっぱいになったとしても、いきなりこんなに変わるものなのか? 魔作物、スゴいな……。 「美味しかった? お腹が痛くなったりしていない?」 私がたずねると、エアラは嬉しそうに笑いながら答えた。 「大丈夫でス。こんなに、お腹いっぱいになっタのは初めて!」 「そうか……。良かったね」 せりがふんふんとエアラの匂いをかぐ。 「え……?」 エアラは、せりと私の顔を交互に見た。 「……せり?」 何か警戒しろ、ということか? 吸血族の裏切り者が魔王サマのお城にきた時は間違えてしまったから、今度は気をつけなければいけない。 だが、せりは私を振り返ると満足そうに鳴いた。 「にゃあ!」 「え、あ、うん」 「にゃあ! にゃあ!」 じれったそうに、せりが鳴く。 ごめん、何が言いたいの分からない……。 せりが福助に体をこすりつけもう一度「にゃあ!」と鳴いた。 福助もまた、私の顔を見て「にゃ!」と鳴いた。 「えーと……?」 困惑していると、今度は福助がエアラに近づいていく。 福助の回りを、きらきらとしたものが踊るように跳ね回った。 福助と契約している風の精霊達だ。 「福助!?」 やはり、警戒しろとせりは言っていたのか!? 「みんな、かまえて!」 だが、猫達は私の指示に従わなかった。 みんな、興味津々といった感じでエアラの回りを取り囲んで匂いをかいだり、体をこすりつけている。 「え、あの……?」 エアラはおろおろとして、猫達を見ている。 あー、これ、見覚えがあるな。 特に猫が好きではない人に限って、猫の方が興味を示すパターンだ。 とりあえず、エアラを警戒する必要はなさそうだ。 そう思っていると、エアラの回りをきらきらとしたものが取り囲む。 猫達と同じように、風の精霊達も彼女に興味津々といったようだ。 んー……? ああ、なるほど。そういうことか。 魔力の通った鉄の棒。 魔作物を食べたとたんに、見た目の変わったエアラ。 捕らわれていた獣人達も、いくら食べてもお腹がすいていたと言っていたから、この世界の食べ物には魔力が宿っていないのだろう。 エアラはお腹いっぱいになるほど魔作物を食べ、身体中に魔力が満ちあふれ、それによって本来の姿になったということだろう。 つまり、ここは魔力を必要とする世界なのだ。 それなのに、この世界は魔力を捨てて科学を発展させてきた。 そりゃ、滅びかけているわけだよ……。
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