別室。

1/1
115人が本棚に入れています
本棚に追加
/73ページ

別室。

この世界のことは、まぁ、いったん置いておくとして。 よつばと人魚の姿がない。 「……」 いや、この部屋にいた獣人達は、エリザベートのように比較的この世界の人間に近い姿をしている。 連れてこられたはずの人魚や小人族、獣人達のなかでも獣に近い姿をしたもの達は、この部屋にはいなかった。 エアラにたずねると、奥へ続いているらしい通路を指さして言った。 「向こうの部屋に連れテいった」 奥の部屋には、エアラも入ったことはないそうだ。 よつばが先行しているから、鍵は開いているだろう。 「エリザベートはここに残って、みんなを守って」 「……分かりましたわ」 神妙な顔でエリザベートが頷く。 勘のいい子だ。 人とは遠い姿を持つものを別室に連れていったということは。 ……目をそむけたくなるようなことが行われているかもしれない。 「コハクも残って」 「ピィー!!」 私の言葉に、抗議するようにコハクが高い声で鳴いた。 いや、コハクがいると隠密行動がとれないんだよな……。 猫と違って、気配を消せないし。 「なんかあったら、大きくなってこの建物ごとぶっ壊してほしいのよ」 キングがいれば、私達の方はどうとでもなるし。 ここをエリザベートだけでは守りきれなかった場合のことも考えておかなくては。 「よろしくお願いしますわ」 「ピィー……」 エリザベートが笑いかけると、コハクはしぶしぶといった感じで彼女の隣におりてきた。 「みんな、行くよ」 手のひらサイズのりゅうたろうが、私の肩にひらりと飛び乗った。 せりがぴくぴくとひげを動かしながら、前を歩く。 私は静かに動くように気をつけたが、猫達はいつものようにふらふら歩いていても物音ひとつたてない。 あの福助すら、気配がしないんだからな……。 通路のところどころに、とろんとした表情の連中が座り込んでいる。 よつばの「魅了」にやられたやつらだろう。 コレをたどっていけば、少なくとも人魚の居場所までは行けるわけか……。 ぴたり、とせりが扉の前で立ち止まった。 私を振り返りながら、かりかりと扉を引っかいている。 「せり……?」 なんだろう、せりの表情が切羽詰まっているような……。 うん、急ごう。 案の定、扉の鍵は開いていた。 中に入ると、妙な匂いがした。 これは、薬品か……? 病院の匂いに近い。 目立つところに大きな水槽があった。 だが、水は妙な色に濁り、人魚が死んだ魚のように水面にぷかりと浮いている。 その水槽の前に、よつばが座っている。 前足を水槽にかけ、人魚の様子をうかがっているが、困惑しているように見える。 「よつば」 名前を呼ぶと、よつばは振り返り私の元に急いで駆け寄ってきた。 「にあん……!」 何かを訴えるように、よつばが鳴いた。 ……うん、分かっている 。 エリザベート達を連れて来なくて正解だった。 「ぶっ飛ばすよ……!」
/73ページ

最初のコメントを投稿しよう!