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再会。
〈傷痕〉をくぐり抜けると、裏世界はまだ明るかった。
どうやら、多少の時間のずれがあるようだ。
「エリザベート!」
ヴラドが駆け寄ってきた。
魔王サマやリリス、ブエルのほかに魔族の兵隊さん達の姿もあった。
「お兄様!」
「よかった!」
感動の再会だが、がちのパワータイプであるエリザベートに力いっぱい抱きつかれ、ヴラドの顔が歪む。
ぐぅっ、とか、おふっ、とか苦しげな声がときおり漏れているが、それでもヴラドはエリザベートを離そうとはしなかった。
魔王サマは私の後ろにいる獣人達を見渡し、声をかけた。
「皆も、よく無事で戻ってくれた」
「魔王様!」
「もう駄目かと……」
みんなが魔王サマのまわりに集まる。
獣人達にはブエルが声をかけ、小人族の手をリリスが握りしめる。
私は無限収納から水槽に入っている人魚を取り出した。
周囲を見渡し、裏世界に戻ってきたことに気づいた人魚は嬉しそうにばちゃばちゃと尾びれで水面を叩いた。
魔王サマが私に近づいてくると、すっと片ひざをついた。
「つかさ、あなたに最大の感謝を」
「ああ、うん。でも、猫達がね、ほら……」
いや、そういうの恥ずかしいんですけど!
それに、いつもどおり猫達が好き勝手に暴れただけだしな!
立ち上がると、魔王サマはリリスを振り返った。
「では、〈傷痕〉をふさぐ手筈を……」
「お任せください」
「ちょっと待ったぁぁ!」
二人のやりとりに、慌てて割って入った。
「また戻らないといけないから、まだ閉じないでほしいんだけど」
「まだ何かあるのか?」
私の言葉に魔王サマの顔が険しくなる。
さっとブエルが前に出てきた。
警戒しているようだ。
まぁ、ムリもないけどな。
私は、向こうの世界は滅びかけていること、本来は魔力が必要なのにそれが不足していることなどを話した。
向こうの世界を再生させるために、畑を作っている最中であることを言うと、みんななんともいえない表情になった。
「畑……」
「お主は何をしに行ったのだ……」
いや、うん。気持ちは分かる。
殴り込みにいったはずだからな。
でも、私は農耕神様の加護ももらっているし、やれることはやっておきたい。
「……」
一番複雑な表情をしているのはヴラドだ。
まぁ、そうだろうな。
妹であるエリザベートをさらわれ、一族のものが命の危険にさらされた。
なんで、そんなやつらのために。
そう思うのは当然だろう。
だが。
エリザベートがぎゅっとヴラドの手を握る。
「私、向こうの世界でお友達ができましたの。とてもいい子でしたわ」
〈傷痕〉が閉じれば、二つの世界が繋がることはもうない。
多分二度と会うことはないだろう。
エリザベートはヴラドの顔を見上げながら、にっこりと笑ってみせた。
「私の大事なお友達のために、お兄様も協力してくださるわよね?」
「エリザ……、い、ぎ……!」
ヴラドの顔が歪む。
こらこら、握る手に力をこめない。
そういうのは、脅迫と言わんかね……。
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