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その声と同時に、後ろに引き戻されたオレの目に赤光が映り、目の前を乗用車が通り過ぎた。前にいた制服が動いたので、歩行者用の信号が青になったのだと思い込んだのだ。そのオレを止めるために後ろにいた誰かが背中のリュックを掴んで引いて助けてくれた。
聞き覚えのある声だった。振り返ったオレはやさしい大きな目を見つけた。
「高橋さん」
「ほら、青になった。前見て歩く」
高橋さんはオレのリュックを掴んだまま押す。歩道を渡り終えると自然に横に並んで歩いた。
「ありがとうございました」
「気をつけなきゃ。電車の時間が迫っていると、一通だから、車がいなければ信号を無視して渡っていく奴が一定数いる」
「いつもは気をつけているんですけど……」
今日は高橋さんのことを考えていたからだとは言えるわけがない。
「自分の目でちゃんと見て、轢かれてからじゃ遅い」
生徒だけでなく大人たちも平気で信号無視をする。それをここを通る車もわかっていてスピードをかなり落として通る。それでも毎年ここで何件かの事故があるという。学校からも信号無視について再三の注意を受けていた。
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