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高橋さんと別れ、南口を出て二十メートルほど歩いたところで、名前を呼ばれた気がして振り返る。改札に向かったはずの彼の姿が南口にあった。
右手で空を指さし、何か言っているようだ。口の動きだけでは何を言っているのかわからない。わざと声を出さずに伝わるかどうか試しているように見える。
読唇術ができる人はそんなはにいないと思うが、高橋さんはオレがわかると思ってやっているのだろうか。わからないのならわからなくてもいい、と言われている気もする。戻ろうとするオレを手で制し、同じ言葉を二度繰り返すと、手を振って駅構内に入っていった。
青空に半月が白く控えめに浮かんでいる。彼の言葉が読めたわけではないけれど、なんとなくはわかった気がする。その言葉に言葉以上の意味があったことをオレが知るのはもう少し後になる。
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