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〈遠景。長い髪の女の鎖骨あたりまでのアップ。濡れ髪でうつむき加減〉
〈歩く女の膝下から裸足の足〉
〈薄布をまとい、女が裸の男へと向かう〉
曲に合わせ、この男女のどちらも特定できないように上手く編集されている。この次はどう編集されどのような仕上がりになったのだろうか。
シャウトするボーカルの声。
〈半月〉
〈女の腕が男を抱き寄せる〉
もう、これ以上は見ていられない。最高潮のバンドの歌と音と大勢の男子生徒の歓喜に共振しはじめた体育館。腰をかがめてそっと抜け出そうとしたオレは腕を掴まれた。高橋さんだ。
「最後まで見て」
「無理」
「ボクの最後の作品だから」
「ごめんなさい」
オレは掴まれた腕を高橋さんごと引いて暗幕の外に出た。
「じゃあ、今晩、あの土堤に来て。来ないとばらまいちゃおうかな」
高橋さんはそう言って、スマホをオレの目の前に差し出した。そこにはオレの尻のアップが。意地悪? からかっているにしては酷すぎる……。
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