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MV撮影
駅前で助けてもらった時に内容も訊かず引き受けたことが、撮影に参加することだとわかったのは夏休みに入る少し前だった。
軽音部のバンドが文化祭のステージで歌う曲につける映像を撮るので、出て欲しいという話だった。曲名の「半月」に合わせ、月の位置を割り出し、撮る日を決めたという話と、日時や場所についての連絡を高橋さんからもらった。
彼が写真映像部所属だったことをこの時初めて知った。この部の活動はほぼ個々で、写真展やコンクールなどには個人での出品が多く、部員が集まって一緒に何かをするというのは珍しいことなのだそう。
バンドHalf Moonのリーダーと写真映像部部長の堀さんがたまたま同じクラスで、映像制作を頼まれたが、引き受けるつもりなどなかったらしい。部内で映像を得意としているのは高橋さんだけで、受験生でもある彼がそんな話は断わると思っていただけに、二つ返事で承諾したのにはびっくりだったそうだ。
ストーリーも動きも全て高橋さんが考えたのだという。その話を持って堀さんは初め演劇部員にあたったそうだが、どの生徒も高橋さんの頭の中にある人物像とは違うのだと、首を縦に振らない。誰に頼むかを部員たちが相談していると、突然「やっぱり、鈴木将宗でいく」と言ったそうだ。
高橋さんがオレをイメージ通りだからと推すが、なんに対しての「やっぱり」なのかもわからない。とにかく、今まで見たことのない彼の姿だったのだという。内容も知らせずオレに承諾させていたことにも、部員全員が驚いたのだと撮影の休憩時間に堀さんから聞いた。
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