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十秒ほど抱き合うだけだとの打ち合わせで、野中さんとも触れるか触れないかの距離でよかった。それが高橋さんは長い間密着したままでオレからなかなか離れてくれなかった。薄い布越しに感じる彼の熱い身体、頬に顎に触れて離れての唇に、何も考えられないし冷静ではいられない。撮影だというのに、オレは混乱の中にいたのだった。
「高橋、もういいんじゃないか? アップで。結構いい感じに撮れたと思う。まあ、編集がおまえだから、俺が言うのもおかしいかもしれないけど」
同じ三年の部長の言葉で彼はオレを解放した。
「わかった。なら、お疲れさま、で。データは全てボクに。機材などはそれぞれ持ち帰ってくれ」
その言葉を待っていたかのように堀さん他部員たちがその場に持ち込んだものの回収を始めた。
高橋さんが、少し離れたところにあった半裸時に巻き付けていた薄布を素っ裸のまま動けずにいるオレに投げてよこした。その布を受け取り、腰に巻き付けた。正直、終わったという安堵なのか、密着からの開放感なのかわからないが、膝から崩れ落ちそうなのを堪え立っているのがやっとだったのだ。
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