初恋

1/4
前へ
/150ページ
次へ

初恋

 もう半分忘れていた。思い出そうとしないようにしていたという方が近いかもしれない。それを今頃、頻繁に思い出したり、考えるようになったのは何故なのだろうか。  少し遅めのオレの初恋……。あれは小二か小三の夏休みの終わり、宿題の参考になる本を探すため母親に市立図書館に連れていってもらった時のことだ。並ぶ書架の最下段で目当ての本を見つけ、しゃがんで手に取ろうとしたオレの右耳に誰かがささやいた。 「好き……」  何が起こったのかわからなくて一瞬固まったものの、すぐに立ち上がり、首を大きく振って周りを見たけれど、それらしき子はいなかった。書架の向こうに同じくらいの背丈の子の後ろ姿がちらっと見えただけだった。どこかで「リオ」と誰かが呼んでいた。その子のことかどうかもわからない。  たったそれだけがオレの記憶、それとも? いつの間にか頭の中で少しずつ変化してしまったこともあるかもしれない。
/150ページ

最初のコメントを投稿しよう!

31人が本棚に入れています
本棚に追加