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そして数年後の中一の夏休み。部活が休みで電車で遊びに行った帰り、駅前で「free hug」のカードを胸にした外国人の集団がいるのを見た。その集団と向かい合うように距離を取って中高生の女子が溜まっている。その時、中の一人が進み出て背の高い外国人男性とハグを始めた。その騒ぎに人が集まってきた。
オレたちは友人であっても、滅多にハグなどしない。知らない人と、それも人前で抱き合うなどはもっての他と言える。外国でなら珍しいことではないのだろうが、この国の街中で行われていれば、見る分には興味はある。家路につくはずのオレたち中学生三人も遠巻きながら、眺めていたのだった。気づくとオレたちの後ろも人だかりである。
アキにそろそろ帰ろうと言おうと向きを変えたその時、ふいに右腕を後ろに引かれた。驚いて体勢を立て直そうとするオレの右頬辺りに息がかかり、やさしい声がした。
「好き……」
えっ? 今なんて?
すぐに右腕が解放されたため、その反動で身体が傾いた。つんのめりそうになりながらも、声の主を、覚えのある香りをまとった人を目で捜す。
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