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「ねえ、一年生。そこの場所、替わってくれないかな?」
肩にやさしく触れた手の持ち主がオレの顔を覗き込むようにして言った。目を開けたオレは黒目がちの大きな目と目が合った。
「はっ、はい」
次に目に入ったネクタイの色で三年生だとわかり、慌てて身体を起こし立ち上がった。
「そんなに慌てなくていいよ。よだれが垂れてるし」
「えっ?」
オレは左手の甲で慌てて口元を撫でたが、何もついてこない。
「ごめん。冗談だから」
立ち上がったオレを見上げて、その三年生は笑っている。めちゃくちゃイケメンであることを認識せざるを得ない。ただ下手な冗談を言われてオレは笑うどころか少しムッとした顔になっていたのかもしれない。
「ごめん、ごめん。あんまり気持ちよさそうだったんで、どうしようかと思ったんだけど……。ここの席、ボクも好きなんだ、ごめんね」
席を譲ろうと広げていた本を閉じて片付けようとすると、その三年生はオレの手を止めるようにして言った。
「やっぱ、いいわ。今日は隣で我慢することにする。君の寝顔を見ながらの受験勉強も悪くない」
「で、でも……」
「いいから」
三年生相手では言われた通りにするしかない。オレが座り直すのを見届け、その人は隣に腰かけた。
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