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それからしばらくは高橋さんとは面と向かって話すことはなかった。登校時に見かけることもあったけれど、目が合うこともほとんどなかった。
部活に呼ばれることが多くなり、図書室で過ごす時間がほとんどなくなった。それでもたまに部活に行く前に寄って覗いてみるのだが、高橋さんの姿を見つけることはできなかった。会えるかもと期待するということは会いたいと思っているようだと自分を分析してみるけれど、何故会いたいのかの理由はよくわからない。
静かなはずの図書室だが、実際には図書委員が作業をしたり、話したりしているため、静寂とはほど遠いことの方が多い。あの日もそうで、彼らの話し声を遠くに聞きながら伏せていただけで、高橋さんに声をかけられた時も眠っていたわけではなかった。なのに、彼の横顔を眺めていたところから起こされるまでの一時間余り、熟睡していたということだ。
それは普段ならあり得ないことで、その一時間が一瞬に消えたような不思議な感覚、それは図書室で高橋さんと出会って、眠って、起こされ、一緒に図書室を出たという記憶、その全てが夢の中のことだったのかもしれないと自分自身を信じられなくなっている。彼に会えばこの混乱が正されるのではないかと、彼を目で探してしまう自分がいる。それが理由と言えば理由なのかもしれない。
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