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 通学路を歩いて着いた。  学校帰りの私は、横断歩道で踊る。  その踊りは、怪物たちへ捧げる祈りだ。  白黒の横断歩道の上、驚くほど人通りの少ない田舎の道は、怪異が発生しやすい代わりに、こういった活動がしやすくて良い。  舞台を整えるのも簡単で、誰かの悲劇や不安や悲しみ、そこを行きかった人間の感情が怪異を生み出すのと同じように、異能にも力を与えてくれる。  飛び跳ねる。  舞い踊る。  軽やかに弾む。  黒と白の小さな舞台で。  背景には真っ赤な夕日、入れ替わるように訪れようとする夜の闇。  見えない場所には怪異たちの気配。  じっとこちらを見つめて、襲い掛かる機会をうかがっている。 「でも、大丈夫」  私は気持ちを、伝える。  悲しい怪異たちに、踊りを通じて。  この私だけの力を使って、整えられた舞台の上で。 「もう苦しまなくてもいい」んだと。  犠牲の連鎖も、不幸の連鎖も、訪れさせない。  白黒の横断歩道、逢魔が時の時刻。  怪異を観客にしたこの世と別の世の境界線で、ステップを踏んで。  強く思いを、描く。  たくさんの人の感情が混ざり合って 「こちらへおいで」と言っているけれど。 「ごめんねそっちにはいけないんだ」  私は、そうやって返すよ。  淡く光る粒が舞い上がり、天空へと向かっていく。  一つ一つのその中に、歪に心がねじまがってしまった怪物が閉じこめられていた。 ――もう誰かをそっちに引きずりこまなくてもいいんだよ。  私は、踊りをやめて静かにそれらを見送った。  逢魔が時が過ぎ去って、夜が静かに訪れる。
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