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12月24日、土曜日。17時。 時間通り岸野の家に着くと、 お母さんが夜勤で出かけるところだった。 「こんばんは」 「こんばんは。川瀬くん、葵をよろしくね」 慌しく玄関を出て行ったお母さんを見送り、 キッチンにいる岸野に声をかけた。 「バイトはない、家族は不在、恋人もいない。 だから、僕を呼んだの?笑笑」 「何か、身も蓋もない言い方」 苦笑いする岸野に笑いかけ、シャツを捲る。 「手伝うことある?」 「サラダのレタス、洗ってくれる?」 そう言った岸野は、 からあげを揚げるのに夢中だ。 「からあげ、フライドポテト、サラダに スープ、ケーキまで作るの? 岸野は才能の塊だな」 「ケーキは、川瀬の大好きなレアチーズ。 からあげは、にんにく醤油味だよ」 「マジで頭が下がる。あとはピザか」 「ホントはピザも作りたかったんだけど、 オーブン調子悪くて」 「今度、見に行こうな」 「ぜひぜひ」 その時、ちょうどドアチャイムが鳴った。 「ピザ屋だな」 財布を持ち、玄関に走った。 「こんばんはー、お届けにあがりました」 玄関先で代金を払いドアを閉めた僕は、 ピザの大箱を抱えて、キッチンに戻った。 「レタス、洗うよ」 「ありがとう、よろしく」 丁寧に手を洗い、レタスをざるに入れた。 岸野の隣でレタスを洗っていると、 岸野が呟いた。 「川瀬」 「ん?」 「今夜は、楽しもうね」 「ああ、もちろん」 改めて言われると、少し恥ずかしくなった。 「さて、冷めないうちに食べようぜ」 岸野の料理とピザを手早くテーブルに並べ、 ジュースで乾杯した。 「しかし、クリスマスが終わったら、もう 年明けなんだな。ホント、1年が早いよ」 食べ進めながら僕がそう言うと、 岸野もそうだねと頷いた。 「川瀬とこうして一緒にいられるのも、 あとどれくらいかな」 「え?どういう意味?」 思わず小さく笑った僕に、 岸野は箸を置いて僕を見つめてきた。 いつになく真剣な眼差しに、目が眩む。 「ど、どうした」 「佐橋くんから聞いた。川瀬、好きな人が いるんだって?」 「‥‥まあ」 「大学の子?それともバイト先の子?」 「岸野、あのさ」 思い詰めた様子の岸野にある予感を抱き、 言葉を紡ぎ出す。 「渡したいものがある。受け取ってくれる?」 僕は立ち上がると、 ソファに置いたトートバッグから 黒い布で作られた袋を取り出した。 それは、先日岸野に見立ててもらった マフラーだった。 「川瀬、それって」 「開けて。中身は知ってると思うけど」 岸野に近づき、袋を手渡した。 震える指先で袋の青いリボンを解き、 中身を取り出した岸野は、僕の顔を見た。 「お父さんのプレゼントじゃなかったの」 「違う。岸野にプレゼントしたかった」 「ありがとう‥‥まさか、もらえるとは」 「さっきは、バイトもない、家族も不在、 恋人もいないから僕を呼んだのかって 悪態をついたけど、ホントは嬉しかった。 僕の方こそ、今年は友達や家族を絡めないで 2人きりで過ごそうって言うつもりだった。 岸野」 僕を見つめる岸野の右手をそっと掴み、 囁いた。 「ずっと、好きだった」 「川瀬‥‥」 僕の名前を呼んだきり岸野は言葉を失った。 「ピザ、冷めるね。食べるよ」 岸野から離れた僕は、 自分の席に戻りまた食べ始めた。 「からあげ最高。料理下手な母さんにも 教えてやりたいよ」 「川瀬」 沈黙していた岸野が、口を開いた。 「何」 「川瀬の好きって、そういう意味、だよね」 「そうだけど」 「いつから、その、僕のことを」 「中学の時からだけど」 「その頃からの僕の気持ち、知ってた?」 「岸野の?いや、知らないけど」 「僕もずっと川瀬が大好きだった」 「‥‥ホントか?」 瞬時に、胸が熱くなった。 岸野は目を潤ませ、僕に微笑みかけた。 「好きでいて、良かった」 「ああ、僕もそう思う。長かったけどな」 テーブルの上で、 どちらかともなく手を握り合う。 「川瀬。もう一回、マフラー巻いて」 「いいよ」 立ち上がり、再び岸野の側に立った。 マフラーを手に取り、 岸野の首筋に巻いてやると、 突然、岸野が僕に抱きついてきた。 「川瀬、大好きだよ」 「岸野、僕も大好きだよ」 かわいすぎる。 上目遣いで僕を見る岸野の唇に 軽くキスを落とし、優しく抱きしめた。 こんな日を待ち望んでいた。 ずっと恋焦がれていた相手と、 両思いになれた喜びが溢れて止まらない。 この後、 冷蔵庫で冷やしていたレアチーズケーキを 食べさせあった挙句、 明け方まで甘く深いキスをしながら 岸野と抱きあっていたことは、 言うまでもない。 こうして今年のクリスマスイブの夜は、 理想的な展開を迎えたのだった。
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