花園

1/3
2人が本棚に入れています
本棚に追加
/39ページ

花園

 ただ、ため息しか出てこなかった。 「マジかよ」  文字どおりに光り輝いている周囲を眺め、能見(のうみ)尚生(なおき)は本気であきれてしまう。あるところには金があるものだ。わかってはいたが、これほど豪華な場所に足を踏み入れるのは初めてだった。  現に尚生がゲストルームとして案内された部屋も、あっけに取られるくらい広かった。  高い天井には色鮮やかなアラベスク模様が施され、クリスタルが連なったシャンデリアがきらめいている。床は大理石で、中央に金で縁取られた寄木細工の大きなテーブルと、揃いの椅子が置かれていた。続き部屋には天蓋つきの大きなベッドも見える。  インドでは、かつて各地に絶対的君主マハラジャ(藩王)が存在した。現在では政治的権力こそ失ったものの、莫大な資産を有する者も多く、尚生を招いたカルマン家もまた、その一族だった。  何もかもきらびやかで美しく、椅子に座ることさえためらってしまう。尚生が働くメンズホストクラブ、実は会員制デートクラブの『デビルズ・パラダイス』や、客が連れて行ってくれるラグジュアリーホテルでさえ、ここに比べればずいぶん安っぽく見えた。 「マハラジャ……か」  マントルピースの上にある金縁の大きな鏡に目をやり、尚生は手早く髪を整えた。  くせのない艶やかな黒髪、ほんのりと上気した白い肌。  大きな目はほどよく潤み、唇のピンク色も冴えている。鏡の中で微笑む小作りな顔は、自分で見ても悪くない。  何人もの男たちを跪かせてきた、妖精めいた美貌は今日も絶好調だ。
/39ページ

最初のコメントを投稿しよう!