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日常
「おはよう、望月くん。キミは相変わらず綺麗だね、さっそくそこらのチワワと戯れてくれないかい?」
「おはよう、委員長。今日も元気だね」
会って開口一番がそれかよ、なんて言葉を呑み込んで笑顔でやり過ごすと目の前のメガネは「つれないところも相変わらずだ」と嬉しそうに言う。
心底気持ち悪い変態だけれど、これも日常の一端と化してしまった今ではなんとも思わない。
あまりの気持ち悪さに鳥肌が立つのだって昔からなにひとつ変わらないこと。
「相変わらずと言えば愛しの彼はどこかな?」
「だれのことか分からないや。ごめんね」
「やだな、彼のことだよ。神城 聖。キミの大事な旦那だろう?」
「あはは。委員長はほんと元気だね」
一向に止まらない彼にうげえ…と白目を剥きたくなるのを堪えた。
委員長こと御手洗 駿介は、自身で誇示するほどのれっきとした腐男子らしく、元々だって中々のクセを持つ男だったっていうのになにがきっかけか中等部のときにソレらに興味を持ってからは特にクセの強いやつと成り果てた。
見てくれはただのインテリイケメンなのにな。
しかも腐男子、って……。
よく此処に来て早々男同士のナニを見ておいて腐男子になれるよな。最初は彼だって抵抗があっただろうになにがあったらそうなるんだ。
「まあ冗談はここまでにして、知ってるかい?」
「お前の場合どれも冗談じゃないだろ…」
「この世にはチャラ男受けという素晴らしい言葉があるらしいんだが僕は白石くんあたりが…」
「ちょっと待った」
それをどこかのチャラ男が聞いてたらどうしてくれんだ、と恨みこもった目で制止した矢先。
「──俺が、なんだって?」
耳元に落ちた、夜の情事を彷彿させられるほど甘く囁かれた声に目が合ったメガネとふたりしてピキリと硬直した。
それからギギギ…と壊れかけたロボットのようにゆっくりと振り返れば、サラサラな黒髪の隙間からゆるりと細められた榛色の瞳の奥に冷気を含ませる男の姿。
気のせいじゃなければ、ひゅ〜…とひどくか細い風の音が俺たちの間をたしかに吹き抜けた。
白石 綾人。
色気のある甘い顔立ちと泣きボクロ、センスのいいアクセをほどよく着飾った超美形のこの男は、チャラ男を絵に描いたような男であり、いくら妄想上と言えど自身が右側に立つことを一切許さない男である。
つまり、アンチ自分受け。
「──ん?」
わりと過激派であることも此処に記そう。
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