日常

2/3
580人が本棚に入れています
本棚に追加
/27ページ
それからなぜか綾人を煽ろうとするメガネを押しのけて必死にフォローに入るも、「へえ、(とおる)はよりにもよってその変態を庇うんだ?」と美形の絶対零度な目に多大なるダメージを負い、限りなく小さい忍耐力を消耗しながらもなんとか事を収めた。 きっと美形の怒った顔ほど怖いものはないと、この日以上に思うことはないだろう。 「なぜだ。これじゃあ納得がいかない、僕は正直に言っただけなのに」 「黙れ腐男子」 「やだな、そう褒めてくれるな。なにも出やしないぞ」 「寧ろ出さないでくれる?」 「なあに、下ネタぁ?」 「黙れチャラ男」 「あは、ウケんね」 いつものゆるゆる口調に戻った綾人の様子にほっと胸を撫で下ろしつつ、机の中から取り出した教科書類を机上に並べてはスラックスのポケットからするりと携帯を取り出した。 慣れた操作で起動させれば、数件の通知が画面に映し出される。 あいつ、やっと起きたのかよ。 今頃重い目蓋をこすりながらおもむろに支度をしているのだろう同室者に思いを馳せていると、ぬるりと上から影が差し込んできた。 「お、愛しの旦那から来てるじゃないか」 「勝手に見ないでくれるかな、委員長」 「…透ちゃんのそのモードって逃げ道だったんだぁ」 「あはは、逃げ道って言わないでくれるかな?」 「違うのぉ?」 違わないけれども。 望月 透。第一学年S組。ピチピチの15さい。 ちょっぴり人見知りをかまして薄ーい猫を被っていたら気がつくと学園の王子様扱いされてしまっていて、戻れていたはずの場所に簡単には戻れなくなっていました。 しかも、流石にそれは中等部までの話にしておこうと思っていたのに変に勘繰った両親からは「共学なんてはしたない」なんて言われ、気づいたら生徒たちの間で交わされる噂話によって中等部はもちろんのこと高等部の外部生にまで俺の事を知られてしまっていた。 共学をなんだと思ってんの。その無駄に優秀な情報網はなんなの。 言いたいことはいっぱいあるけれど。 「つか、透ちゃんが聖ちゃんのこと置いてきたなんてめずらしーね。なんかあったのぉ?」 思わず顔を顰めた。 その「なんか」が現在進行形で俺の頭をぐるぐると困らせているのだ。 「んー…、」 「!ああ、分かるよ…!これ以上彼への想いが溢れるのが怖くて彼の顔が見れないのだろう?」 「全然違うからだまって」 「ふは、辛辣なのウケる」 変態メガネがなにやらブツブツ言ってるけれどそれも気にならないくらい憂鬱で、昨夜届いた2通のメールを思い出しては重いため息を吐く。 「……っはあぁぁ、」 「透ちゃんお疲れだねぇ」 「恋だな」 「いいんちょーそろそろ透ちゃんにその雑念潰してもらったらぁ?」 「キミはそろそろ会計に立候補したらどうだ。夢の王道チャラ男会計様の完成だぞ」 「あは、死んだら?」
/27ページ

最初のコメントを投稿しよう!