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巷で噂の
彼がその姿を見せたのは、ちょうど4時限目の終わりを告げるチャイムが校舎中に鳴り響いたあと。
担任の久住が自慢の金髪をサラリとかきあげ、生徒たちの熱のこもった視線に流し目で応えた挙句、「次の小テスト忘れんなよ」と色気たっぷりに吐息で笑ったときだった。
──ガラッ。
「──っぇ、うそ。きゃあぁぁ…!!!!」
「やべ、少し遅れたか」
「……少しどころかもうお昼前だわ、この遅刻魔」
乱雑に扉を開けた音と共に現れた彼とその登場に臆することなく慣れたように注意する久住。ついでに沸く生徒。
1年S組の教室ではわりと見慣れた光景が広がっていた。
現に先程男にしてはやけに可愛らしく叫んだ生徒は彼の登場に驚いたのではなく、彼の姿に喜びの声をあげただけだ。
そんな授業終わりの教室に呑気に顔を見せた彼は、久住と幾つか言葉を交わすと漸くこちらに向かってくる。
「やあ、サボり魔くん」
軽く手を上げると無表情なそれに表情が浮かんだ。
神城 聖。
赤髪のオールバックに金色の瞳、ピアスの量では想像できないほどの綺麗な顔をもつ彼は、相当なサボり魔であり、喧嘩上等と書かれた羽織を着てそうなくらいの不良くんである。
本人からしたら笑える話だろうけれど、わりとガチで入学式当日の彼にはビビった。どこの族長かと。
まあ、それももうすっかり慣れた。
その鋭い眼光を前にへらっと笑えるくらいには。
「あ、サボり魔くんはまだおねむなのかな?」
「うっせえよ。お前置いていっただろ」
「置いていけっていつも言ってくるのはだれだと?」
「………………生理か?」
「ちげえよバカ」
ノンデリな彼には月に15回遅刻した暁に課せられる、グラウンド30周の刑と久住からの大量な試練(課題)をぜひともプレゼントしたいものだ。
そして、そんな会話に興奮するメガネがひとり。
「な、なんて素晴らしいんだ…!」
「なあにー?ケンカぁ?」
「チッチッチ、キミにはやれやれだな。こういうのはね、痴話喧嘩と呼ぶんだよ。分かるかい?」
「へえー」
「……僕が悪かったからその鬱陶しいとも言いたげな顔はやめてくれ」
「いいんちょーってすっげえ鬱陶しいよな」
「ごめんなさい」
素直に謝るメガネの姿に驚いたように目を丸くさせた聖の顔がちょっぴり笑えた。綾人って強いよな。
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