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「おう、ユウヒ、久しぶりだな、どうした?」
大きな机の向こうに、品の良いスーツを着こなした細身の男性が座っていた。自分の親ぐらい? もう少し上に見えるけど、ものすごく渋くてカッコイイ。社長までイケメンなのか、こういう業界って。
「社長、ご無沙汰しています」
机の上に置かれているネームプレートにはヤマガミヤスユキ、と書いてあった。わ、 ヤスユキ先輩と漢字も同じだ。細身の人ってヤスユキって名前が多いのかな、なんて思う。
「隣の彼は?」
顔の前で組んだ手の人差し指だけ揺らして、社長が僕を見やった。
「あ、僕は高校の時からの彼女の友人で、ハネダトモと言います」
「友達? ……彼氏の間違いじゃないのか?」
言い当てられて動揺してしまう。けれど社長は僕の事をチラリと見やっただけで話を続けた。
「ふーん、まあいい、で、用件は?」
「事務所を辞めさせていただきたいと思いまして……」
震える声でユウヒはそれだけを言った。
「それだけならマネージャーと話してから上げてくる話だろ? わざわざこうして直接来た理由は何だ?」
うつむくユウヒに声を掛けた。
「頑張って話してみて……」
「……あの、今回のプロデューサーさんに声を掛けられて……」
経緯を、つっかえつっかえしながらも、一通りユウヒが話した。以前から複数のプロデューサーがそうしたことをしていること、被害者は自分だけでは無いことも。
「なぜそれを早く言わない!」
「マネージャーに相談しましたが、プロデューサーに逆らうなと言われました……」
「……君は知ってたのか?」
ヤマガミ社長が僕に訊いてきた。
「いえ、僕もずっと会っていなくて、突然昨日僕のところに泣きながらやってきて、初めて知りました」
「そうか……ユウヒ、辞める必要はないぞ。よく言いに来てくれた。ハネダ君、連れてきてくれてありがとう。彼女がいないとグループが成り立たないからな」
社長の言葉を聞いて、僕は胸を撫で下ろした。
「ユウヒ、しばらく休むといい。スケジュールは調整して追って連絡する」
「はい」
「あと……うちの事務所は本気で付き合うなら恋愛禁止じゃないけど、知らなかったか?」
「え?……それは、知りませんでした」
「やっぱり折に触れて周知しないと駄目だな~。ちゃんと会えるように計らうから。で、隣の彼は友達? 彼氏?」
「あ、あの……」
ユウヒが真っ赤になってモジモジしている。
「か、彼氏です!」
ユウヒが返事をする前に、僕が思わず大きな声で言ってしまった。
「わかった。ではそのように対応する」
ヒマワリのような笑顔でヤマガミ社長は笑った。さっきまでの鋭い目付きとのギャップがすごい。あっという間に社長は今までの話の事実確認や対応をするよう秘書に指示を出した。
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