直談判

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 ヤマガミ社長がエレベーターホールまで送り出してくれた。 「高校からって、クラスが一緒だったのか?」 「いえ、部活が同じで」 「何の?」 「ダンス部です」 「へえ! トモ君は今も踊ってる?」 「丘の上大の舞台芸術科でダンス専攻です」 「……マツモトさん、ちょっと練習室行ってくるから!」  社長が秘書に声を掛けた。 「え? 困ります社長! もう会議は始まっています!」 「どうせいつものやつだろ。あー……、副社長に頼んどいて!」  そして向き直ると、僕に微笑みながら言った。 「ちょっと時間あるか? トモ君、ダンスを見せてくれ」 「え?」  エレベーターの扉が開くと、ヤマガミ社長に押し込まれ、僕らはダンスの練習室に連れて行かれた。 「どんなのを主に踊ってる?」 「コンテンポラリーです」 「練習してる曲はある?」 「これです。今の課題なのでまだ出来上がってないんですが」 「いいよ、じゃあその曲で踊ってみせてくれないか」  今個人の課題で練習しているものがあるので、それを踊った。 「すごいな! 毎日練習してるだろ。身体が柔らかいのは天性だな」 「はい、毎日……」  僕は認められたようで嬉しかった。校外の人に講評をもらったことが無かったから。もうすぐ先輩たちとやるイベントが校外での初めての体験となるはずだったのだ。  ヤスユキ先輩のあのクラブでのダンスを見なかったら、キッカに会わなかったら、僕は毎日ここまで練習しなかった。  ヤマガミ社長はニコッと笑って言った。 「トモ君、踊りを仕事にする気、ないかな?」
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