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大学三年生の終わり。大学の卒業を待たずに、その約束は叶った。
ユウヒの所属するグループのミュージックビデオで僕が踊ることになった、とノゾムと話していた時が発端だった。
「初仕事がこれになるなんてなぁ。思いもしなかったよ」
「ユウヒちゃんも喜んでるだろ?」
ノゾムはマシロと近々結婚をするらしい。学生結婚だけど、二年生の秋ごろからもう一緒に住んでいて、特に反対する人もいないから、と決めたという。
「うん、まあね。そうそう、結婚するんだろ? お祝いに二人だけのために踊るよ」
「それなら、ユウヒちゃんと踊ってくれない? あと、それをビデオに撮らせてほしい。作品の参考にしたいんだ」
「マジで! 二人で踊っていいの?」
「え? こっちこそ嬉しいけど、何で?」
「一緒に踊るって、高校の時からの約束なんだよ!」
僕は喜び勇んでユウヒに連絡した。
”ノゾムとマシロちゃんの結婚祝いで俺ら二人で踊ってほしいって!”
”ノゾム君結婚するの? うん、絶対お祝いしようね!”
お互いの時間の合間を縫って、僕らは練習した。
街中のダンススタジオを借りて、ノゾムとマシロ二人だけの前で、僕とユウヒは踊る。
「このダンスはこれから誰に見せる訳でもないけれど、ずっと二人と僕らの心に残ればいいと思います。ノゾム、マシロちゃん、結婚おめでとう!」
彼らは大きな結婚式は挙げない。だからこのダンスが結婚式の代わりになるのだそうだ。何か神聖なものに自分の動きを捧げるように踊ったのは、これが初めてだった。
踊り終わった後、ノゾムもマシロも拍手しながら泣いていて、僕らも自然と泣いていた。
「おめでとう、二人とも幸せになれよ」
「お前たちもな」
親友の結婚を祝ったのに、僕たちまで祝福されたような気がした。
帰り道に、ユウヒがぽつりと言った。
「約束、叶ったね!」
「うん。三年越しだったな」
「次はどんな約束する?」
「早く叶うやつがいい」
「えー、そんなのつまんないよ! パンケーキ食べながら会議っ!」
ユウヒが歩道橋の上で走り出した。
「……おい待てよ!」
彼女を追いかけながら思う。
次はどんな約束をしようかな。
どんなに時間が掛かっても、君との約束は必ず叶う気がするんだ。
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