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格の違い
”トモ、元気にしてる? 私は元気だよ~! 私の兄さんがDJしてるの知ってるでしょ? イベントやるらしくって、ダンサーさんも出るらしいんだ。ダンスって聞いてすぐトモを思い浮かべたから、もし興味があったら行ってみてね! フライヤーは後日送ります!”
久しぶりにユウヒから連絡が来た。僕の事なんて忘れてるかと思ったのに。翌日にはポストにフライヤーの入った封筒が届いていた。久しぶりにユウヒの手書きの文字を見た。
トモ、会って話がしたいです。いつか必ず遊ぼうね、って、叶いそうにもない言葉がポストイットに書いてあって、僕は少し寂しくなった。
黒地に派手なデザインの文字が踊るそのフライヤーを見てみる。繁華街の奥の方のクラブ。DJCookieというのがユウヒの兄さんだ。他の出演者の名前も書いてあるけれど、ステージネームだろうから見てみないとわからない。
僕はノゾムと共にそのイベントに行き、そこで、とんでもないものを見た。
ヤスユキ先輩と大学の先生のカネシロタカトシ先生がそのイベントに出ていた。ダンス専攻の三年の先輩も。
出ていただけじゃない。
とにかく、すごかった。僕も踊れる方だと思っているし実際にそうだと思う。
けれど、格の違いを見せつけられた。
どうしてあんな風に踊れるんだよ。あれだけ踊れるキッカが憧れるだけの理由が、ヤスユキ先輩にはあったのだ。
僕は、悔しくて悔しくて、イベントが終わり、地下から階段を上がった時に、ノゾムを残して走って帰った。
泣きながら走ったのなんて、いつ以来だろう。
真夜中だというのに、僕は一人暮らしのアパートの向かい側にある公園で、いつまでも練習し続けた。
翌日、昼頃に起きた僕は、忘れないうちにユウヒに連絡をした。
”教えてもらったイベント行ったよ! メッチャ良かった! やる気出た! DJCookieさんにも会ったよ。カッコいいなユウヒのお兄さん。また遊びに行くつもり”
”トモが好きそうなイベントだなって思ったんだ! 楽しかったならよかったよ~! 仕事最近マジでしんどい。パンケーキ食べに行きたいよ!”
仕事のことで弱音を吐くなんて珍しいな。今ユウヒがいるグループって何してるんだっけ? ネットで調べると、どうやらユウヒは男性アイドルとの仲が噂され、叩かれているようだった。
”もしかして、ネットの噂?”
”うん、話した事も無い人なのに、どうやってつきあうんだろうね! でも大丈夫。頑張るね! トモもね!”
泣き顔の絵文字が貼られていたけれど、ユウヒはすぐに話を打ち切った。僕は何もしてあげることができない。友達なのに。
ユウヒをとても遠くに感じる。
”お互い頑張ろう。でもムリしたらダメだよ。話を聞くぐらいならできるから”
Thank You、と書かれた可愛いスタンプが届いた。
高校生の時に部活の仲間で行った映画のスタンプだった。
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