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つきあって?
その次の週、僕はヤスユキ先輩を見つけると駆け寄り挨拶をした。
「ヤスユキ先輩、マジですごかったです! どうしたら先輩のように上達するのか教えてください!」
僕の勢いに先輩は面食らっていたけれど、やる気があるのはいい事だ、と話をしてくれた。
「あ、ヤスユキ先輩! トモ!」
通りがかったキッカもやってきた。
「どうしたのトモ? 先輩と話すなんて珍しい」
「先輩のダンス見てさ、弟子入りお願いしてたとこ」
「でしょでしょ! すごいよね先輩!」
本人の目の前で盛り上がる僕たちに、
「……ちょっと恥ずかしいんだけど……」
とヤスユキ先輩は苦笑いをしていた。
同じヤスユキ先輩のファン、ということで、僕とキッカは仲良くなった。というか、僕がキッカに付きまとって、行動を共にすることが多くなった。
ペアで踊る課題が出た。相手は自分で探すので、迷わず僕はキッカに声を掛けた。
「キッカ、僕じゃダメ?」
「ダメじゃないよ、私も一緒に踊るならトモ、って思ってたから」
嬉しいな、キッカもそう思ってくれてたんだ。課題曲は決まっているから、練習を始めるのも早かった。
「ねえ、キッカ、いつやる?」
「毎日だよ。一人で踊るのだって毎日やるでしょ? ペアとかなおさらだよ!」
キッカのダンスの完璧な動きは、毎日の練習に支えられていた。僕も練習する方だけれど、キッカはもっとストイックだった。
休みの日はもちろん、講義と講義の間でも時間があれば僕らは一緒に踊った。
だんだんと、次の動作に移るタイミングや、細かい部分が掴めてきた。人と一緒に踊るってこんなに難しくて楽しいんだ。
「え? キッカ、ここはこういう解釈じゃないの? だからこう動いてさ……」
「何言ってるのよ、トモ! 全然違うくない?」
解釈の違いでケンカもした。本気で踊ることについて人と向き合ったのは初めてかもしれない。
発表は上手くいった。一番評価が良かったので、秋の学祭でもやることになった。キッカと一緒にいて一緒に踊るって何て幸せなんだろう。
僕はキッカが好きなんだと思う。
「……ねえ、キッカ、僕じゃダメ?」
「何が??」
「一緒にいるの」
「いつも一緒にいるじゃない」
赤い髪を揺らして、キッカは不思議な顔をする。
「つきあって?」
「えー! 本気で言ってるの、トモ⁈」
「うん、本気」
何度もはぐらかされたけど、結局一緒にいるのは僕だから、キッカは根負けした形でつきあうことをOKした。
「私、可愛い男の子より頼れる男らしい人が好きなんだけどな~」
「そんなに俺って頼りない?」
「今から期待してまーす」
そんなこと言ったって、170㎝あるキッカの身体が、僕の身体よりもとても細い骨と細い筋肉でできてるって知ってる。背が3㎝しか違わないのに、君の腕はこんなに細い。
「そういえば、ノゾム君とマシロちゃん付き合いだしたんだってね」
話を逸らすようにキッカが話題を変える。
「うん、すごいよね、ノゾムがヤスユキ先輩からマシロちゃん取っちゃったんだもんな」
「え? やっぱりつきあってたの? ただのいとこだって先輩言ってたけど」
「え? いとこなんだ、なら違うのかな」
あんなに一緒にいる訳ないよ、何もないいとこなら。本当のいとこかどうかも知らないけど、僕は何となくわかる。あのヤスユキ先輩の影のある感じ。
それでも今は、ノゾムがマシロちゃんと幸せならそれでいい、と思った。
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