直談判

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直談判

「一人で行けるから!」 「いーやダメだよ。俺も一緒に行く」  事務所にアイドルを辞めると言いに行く、というユウヒに、その前にプロデューサーの脅迫を一番上の人に告発してやめるべきだ、と僕は言った。 「社長になんてほとんど会った事無いよ! 会えないって! 信じてもらえるかもわかんないのに!」 「いいから、行こう!」  僕らはユウヒが所属する事務所に向かった。 「あの、僕ユウヒの友人でハネダトモと言います。ユウヒのことで社長さんとお話があるので繋いでください!」  受付の人は何言ってるの、という顔をしていたが、横にユウヒ本人がいるものだから、何か只事ではないと悟ったらしい。 「……ユウヒちゃん、大丈夫?」 「はい。社長にお話があるだけです。彼は本当に友達です。ついて来てもらいました」 「……マネージャーさん呼ぼうか?」 「いえ……直接お願いします……」 「……会えるかどうかわからないけれど……確認だけしてみるわね」  溜息をつきながら受付の人が内線電話の番号を押した。  クビになっても、自主退職にしても、ユウヒは辞めると決めていた。それなら直談判してやめた方がいい、というのが僕の主張だった。 「今から十分だけならいいそうよ。社長室に行ってみて」 「社長室⁈」  ユウヒが怯んだけれど、僕は受付の人に身を乗り出して聞いた。 「何階ですか?」 「最上階よ。すぐ行くって伝えてあるわ」  大きな自社ビル。エレベーターに乗っているだけで五分は掛かりそうだ。 「言うだけ言って帰ろう」 「うん……」  不安そうなユウヒの手を握り締めた。    エレベーターを降りると、真っ白い廊下に大きな扉があった。ここだ。  ノックをする。  カチャリ、と内側から扉が開けられた。 「お待ちしておりました。ユウヒさんとハネダトモさんですね?」 「はい」  秘書と思われる人が僕らを交互に見ながら確認した。
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