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「これだけ聞きに来てるんだから、今度は赤点取るなよ?」
「頑張るけど、期待しないで。俺忘れっぽいから」
「忘れるなよ。俺がマンツーマンで教えてるんだから。分からないことがあればいつでも来いよ。いくらでも教えてやるから」
初めての先生の車で少し緊張する中、先生の優しさに嬉しくなる。
誰にでも同じことを言うのを分かっていても、面と向かって言われると特別感を感じずにはいられない。
だからこそ、二人きりになりたくて放課後ギリギリの時間を狙って行くのだ。
誰にも邪魔されたくないから。
「先生は、花井みたいな子、どう思う?」
「どうって? 赤点の常連に対してか?」
「それ言われると耳が痛いよ。そうじゃなくて、可愛いと思う?」
「どう見るかによるけど、素直でいい子だとは思うよ。向坂は花井が好きなのか?」
「何でそうなるの? 違うよ」
「わざわざ話題に出すなら、気になってるのかと思って。じゃあ何で聞くんだ?」
わざわざ先生に尋ねたのは、花井が好意を持って接していることに対して、先生がどう感じているのかが気になったからだ。
少しでも可愛いと感じ、異性として見ることはあるのだろうか。
「花井はスタイルも良くて気さくでモテるから。先生もよく話してるでしょ? どうなのかなって」
「言っただろ。生徒をそういう目で見ないよ」
「だよね。ごめん、ちょっと聞いてみただけだよ」
やはり、先生の答えは一辺倒で変わる気配はない。
それは女子生徒になびくことはないという安心感がある反面、自分も同じように可能性がないことを突き付けられていた。
そもそも、生徒以前に男である俺には微塵の可能性もない。
分かっていても、何故か少しでも可能性を見つけようとしてしまう。
どうしても先生の特別になりたいから。
先生が好きでどうしても近づきたいから、自分で首を絞めると分かっていても何か可能性がないかと探ってしまう。
「まぁ、言い方を変えれば卒業したらありかなとは思うけどな」
「え? 花井が?」
「違うよ。花井に限らず。教師と生徒って関係が無くなれば、元教え子なら付き合うのはありかなとは思うよ。誰にも言うなよ? 教師がこんなこと言ってるってバレたら大目玉食らうから」
怒られることを想像して顔を顰めつつ笑う先生に、俺は少しだけ淡い期待を抱く。
自分がその相手に入るわけが無いのに、何故か嬉しく思ってしまう自分はあまりにも滑稽だ。
それでも先生の一言一言に一喜一憂するのは止められない。
「誰にも言わないよ。先生はどんな人がタイプなの?」
「可愛い系かな。気持ちを隠してるつもりで全然隠せてないような、ちょっと抜けてる子が好きかな。毎度忘れものをする向坂みたいな」
「何それ、俺今説教されてる?」
「してないよ。まぁ忘れものはしないに越したことはないけどな」
「ごめんって。次の日には持ってくるからまだマシでしょ?」
「まぁな。そういうあざといところも可愛いと思うよ」
赤信号で車が停車し、先生はこちらに視線を向けて軽く微笑んだ。
その可愛いがからかっているようには見えず、学校で言われた時よりも激しく胸が高鳴った。
途端に頬が熱くなり、嬉しいよりも恥ずかしさが込み上げる。
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