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「今日の先生なんか変だよ。俺別にあざとくないし」
「十分あざといだろ。俺に会うためにわざと忘れてるんだろ?」
「え? なんで?」
バレるわけがないと思っていたことを言い当てられ、途端に怖くなって顔が引きつる。
どうしよう。気持ち悪いと思われただろうか。
「さすがにバレてるよ。向坂は極端すぎるんだよ。もっとうまくやらないと、変に噂立てられるぞ」
「俺別に、わざとなんかじゃ……だって、そんなことする理由もないし」
「ごめん。伝え方が悪かったな。向坂が好意を持ってくれてることには気づいてるよ。そのことに対して、俺も嬉しいと思ってる」
俺の頭の中は既にパニック状態だった。
先生に全てバレていただけでなく、嬉しいと言ってくれているが、それは俺を気遣ってのことだろうか。
「向坂が誰にも話さないと思って白状するけど、俺本当は同性愛者なんだ。女性は好きになれない。だから、同性から向けられる好意には鋭い方だと思う。その中でも、向坂は分かりやすかったから。だけど、俺に全振りしすぎだ。周りに勘付かれて苦しむのは向坂だ。忘れものも毎度じゃなくて、たまににしろ。テストも真面目にやれ。来年大学受験だろ? 内申にも関わってくるし、聞きに来るのは好きなだけくればいいから。もう少し他の教科とバランスをとれ」
青信号に変わり、真っすぐ前を向いて運転している先生の横顔を見て、嘘を言っているようには見えなかった。
「俺の気持ち、知ってたの?」
「知ってたよ。向ける視線も一番熱いからな」
今までの行動すべてがバレていたと思うと、恥ずかしくて堪らなった。
バレていないと思ってそれなりに大胆な行動をしていたことを後悔する。
「だけど、その気持ちには応えられない。性別関係なく、生徒とは付き合えないから。それでも諦められないなら、卒業した時にまた聞かせてくれる? その時に、俺も素直な気持ちを言うから」
「え? それって、期待してもいい?」
「俺は何も言えない。だけど、向坂のことは可愛いと思ってる。それが生徒としてかまでは言及しないけど、どうするかは向坂が選んで。俺は教師である以上、何も言えない」
それはどちらでも取れるような返答だった。
それでも俺は自分の都合のいいように解釈することにした。
だって、諦められないから。
微塵もないと思っていた可能性が出てきたのだ。
そう簡単に諦められるわけがない。
「分かった。卒業したらまた言うね。いい返事、期待してる」
「期待に応えられるかは分からないぞ。ただ、本当に毎度課題を忘れるのはやめろ。目立つから。次の日にはちゃんと持ってこれるから余計に」
「ごめん。先生と二人きりになりたくて。たまにならいいの?」
「教師として言うなら、毎度ちゃんと持ってこいって言うけど、その理由があった方が向坂も来やすいだろ? 友達に断り入れるのにも」
「そこまで気づいてたの?」
「まぁ、俺もバレないために色々経験してきたから。ただし、程々にしろよ」
「分かってるって。ありがとう」
忘れもの。
それは先生と俺を結ぶ特別な忘れもの。
「先生ごめん、忘れちゃった」
「ったく。明日持って来いよ」
今日もまた、忘れものをする。
大好きな先生に会うために。
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