第二話『告白』

1/1
9人が本棚に入れています
本棚に追加
/10ページ

第二話『告白』

「あの、す、そ……えと…」  告白をどこでしようか悩んでいた。今の今まで悩み続けていた心子は突然陳列棚の下にある引き出しを開け始めた島風に声を掛ける。チャンスは今しかない気がした。 「何かお探しでしょうか」  島風は物腰柔らかそうに優しい声でそう問いかけてくれる。その気遣いが嬉しい。心子は意を決して言の葉を放つ。 「あなっあなたの……ふ、ふ、ファンです!」  いった。言ってしまった。心子はついに口に出したその言葉に達成感を感じながらその場で静止する。  この後は逃げるかもう一言加えるかのどちらかなのだが、あまりの緊張に頭が真っ白になり判断が鈍ってしまっていた。 「……お客様、僕はただの店員ですよ? 作家でも漫画家でもありません。誰かと勘違いされてませんか」  するともう一つの選択肢である、島風からの返事が返ってきた。彼の言っている事は理解できるが、勘違いなどではない。  心子は小さく唾を飲み込むと再び言葉を発した。 「か、勘違いじゃないです……あ、あなた自身のファンなんです……」  そこまで言うと一気に羞恥心が襲いかかってくる。  本屋という静かな空間でこれ以上この話をするのも恥ずかしさの原因だった。  心子は「でではっ!!!」と大きくお辞儀をして素早く本屋を後にした。  彼の言葉を待たずに消えてしまったが、あれ以上彼のそばにいるのは恥ずかしくて堪らなかった。彼はどう思っただろうか。 (島風さん、今日もカッコよかったな……)  もし引かれていたらどうしよう。いや、喜んでくれたかもしれない。流石にないとは思うがときめいてくれたかも……などと多種多様な感情が頭を蠢き、心子は落ち着かない時間を長々と過ごす。  しかしそれでも、明日も本屋に行こうと決めていた。怖い気持ちはあったが、本来の目的である連絡先をまだ聞けていない。  心子は小さく深呼吸をしながら明日の本屋での過ごし方を頭の中で想像し始めた。
/10ページ

最初のコメントを投稿しよう!