9人が本棚に入れています
本棚に追加
/10ページ
第六話『呼び方』
早くも解散の時間がやってくる。正直今日一日は夢なのではと思ってしまう程に楽しく、充実とした時間だった。
島風はこちらの最寄り駅まで心子を送ってくれていた。心子はお礼を言おうと口を開く。
「あのっあの……今日はありがとうございました。とてもたのしかっ……かったです!」
「俺も楽しかったです」
島風はそう言うと「あの」と言葉を続けてくる。心子は正面に向かい合う島風の姿にときめく中、彼の言葉に耳を傾けた。
「心子ちゃんて呼んでもいいですか?」
「えっっ!!?」
「あ、気が早すぎでしょうか?」
「イエッいえっ!!! ぜぜぜぜぜ是非お願いします!!」
「じゃあ俺の事も、下の名前で」
島風の下の名は楽矢と言う。初めてレインのやりとりをした際に彼のフルネームを知ることが出来ていた。
心子は緊張した面持ちで「がっが、がくやさんっ……」と名を発すると彼は嬉しそうに笑って「ありがとう」と礼を告げてきた。
いつの間にか彼の口調は敬語ではなく、友達口調に変わっている。それが何だか親しみが増したように感じられ、嬉しかった。本当に夢のようだ。
そのまま楽矢は満足した様子で心子に手を振ると改札の奥へと消えていった。心子は彼の姿が見えなくなるまでその場で見送り、そしてそのまま自宅へと戻る。
何度思い返しても今日の出来事は濃厚で貴重だ。一生忘れる事などないだろう。
心子は今後もこのように彼と時間を過ごせたらとそんな希望を抱きながら今日一日を満足に終えた。
最初のコメントを投稿しよう!