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一千翔と約束した土曜日の昼。秀馬は陸上部の活動を終えた後、学校から離れたショッピングセンターに自転車で向かった。
うわあああ! ノリで約束しちゃったけど、学校と関係ない場所で会うなんて初めてだなー……。
約束した駅で待ち合わせをしていれば、一千翔が姿を現した。
「そんな服、着るんだ」
秀馬は一千翔の服装を見て、驚く。自分が着ないようなオシャレ雑誌の服装だった。つばつきの黒ハットを被り、ベージュのジャケットに白シャツ、迷彩柄のサルエルパンツを穿いている。もし、自分が穿いても一千翔のように似合わないだろう。
「岸ったらギャップ萌えした?」
一千翔はクスクスと笑いながら秀馬をからかう。
「そうかもしんない。制服と雰囲気違いすぎる」
「ちょ、マジで受け取んなって」
一千翔が驚く声を聞いて、秀馬は顔を赤らめる。間違ってしまった返答が恥ずかしかった。
「……そういう、素直なとこ。純粋でいいな」
街のざわめきで消えてしまいそうな一千翔の声。秀馬は一千翔の言葉を聞き逃さなかった。
「高萩……」
「あ、一千翔でいいよ。俺の名字言いにくいだろ」
一千翔は秀馬よりも早く歩く。そのまま人混みに消えてしまいそうな一千翔に向かって、秀馬は叫んだ。
「一千翔……!」
同じ陸上部の友井でさえ、名字呼び。意識して、誰かを名前呼びをするのは久しぶりだった。
「なに、しゅーま?」
一千翔はいたずらっ子の笑みを見せて振り返る。秀馬も名前呼びに変わっていた。
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