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6体目 あざとパンダのぬいぐるみ
「あーこれこれ。これなんだよなー!」
一千翔はUFOキャッチャーの前で釘つけになる。アクリル板越しにはパンダのぬいぐるみが二種類いた。真顔な顔と笑顔の表情。あざとかわいいパンダのぬいぐるみだ。
「これさーメッセージアプリのスタンプのキャラでさ。あまり無いんだよな」
嬉しそうに話す一千翔に、カメのコーラルを思い出す。コーラルはカメだからかぬいぐるみなどグッズがレアキャラだ。優李を連れ回すほどコーラルを探し回った。
「秀馬ってさ、UFOキャッチャー得意?」
一千翔が秀馬に向かって振り向く。
「いーや、上手くない」
秀馬はあまりUFOキャッチャーをしたことがなかった。そもそも中に欲しい商品があったことがない。
「そうなんだ。俺が欲しいの景品ばっかでさー無駄に技術とおねだりは上手くなった」
一千翔は両替機から千円を両替する。秀馬は傍で見守りながら、一千翔の『おねだり』という言葉に首を傾げる。
「おねだりって……?」
「まぁ、見ててよ」
一千翔は両替した百円玉をUFOキャッチャーに投入した。陽気な音楽が流れ始め、一千翔がクレーンを操作する。秀馬はこういう誰かがゲームしているのを見ることが好きだった。
「うわあああ~あと少しなのにー!!」
一千翔は大げさにリアクションをする。秀馬はケラケラ笑っていた。あざとパンダは一度はクレーンで持ち上げられたものの、もふもふしすぎる素材なのかクレーンからポロリと落ちた。バウンドをして、多少は受け取り口に近づいたかもしれない。
「お姉さん! もう少しだけあざとパンダ近づけてくんない? 俺、めちゃくちゃ好きなんだー」
一千翔は秀馬の後ろにいたゲーセンの女性従業員に元気よく声をかける。秀馬が振り返れば、女性従業員はニコニコしながらポケットからキーの束を取り出した。
「ちょっとだけですよ-」
女性従業員は一千翔が取り損ねたあざとパンダを取り出し口に近づける。
「わー、後もうちょいいけますかね? 学生だからお金がそんなになくてー……」
一千翔は両手を合わせてウインクをした。秀馬は一千翔の様子を驚きながら見ている。そんな技があるのかと感心していた。
「取れたああ!!」
一千翔があざとパンダを神様のように掲げる。女性従業員が一千翔の声を聞いて、ベルをチリンチリンと鳴らしながら現れた。
「おめでとうございまーす!!」
女性従業員はニコニコしながらビニール袋を一千翔に手渡した。
「ありがとうございます! お姉さんのお陰で取れました!!」
キャッキャッと話す一千翔たちを秀馬は遠巻きに見ていた。二人の間には入れないと思っていた。
「あ、すみません。記念に写真を撮ってもらってもいいですか?
一千翔の提案に秀馬は近寄る。一千翔は女性従業員と一緒に写真を撮ると思ったからだ。撮影係として名乗り出ようとすれば、一千翔は秀馬に腕を引っ張られた。
「はい、秀馬。半分持って」
一千翔にあざとパンダを差し出され、秀馬はあざとパンダの半分を持つ。
「はい、笑って笑ってー! 撮りますよっハイチーズ!!」
女性従業員が一千翔のスマホでシャッターを切る。いつもなら上手く笑えているのか不安になるが、今は何も思わなかった。ただただ、楽しい。
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