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今日も神志名君はまだ来ない。
そもそも会う事自体が難しい。
この時ほど高校が離れているのを恨んだ事はないわ。
一週間の内に神志名君に会えたのはたったの二回しかなかった。
何度も見かける部活のランニングをしてる野球部の達が教えてくれたのは、神志名君は一ヶ月前に来た転校生で授業が終わるとすぐに帰ってしまうという事だ。
友達は目つきの悪い男の人しか居ないみたいで、昼もいつも一緒にいるらしい。
女の友達が居ないだけでもラッキーだわ。
私が丁寧にお礼を言うと、野球部の人達はすぐに赤くなる。
気分が良くなって手を振ると余計に盛り上がる。
密かに楽しんでるのは内緒。
それからは30分待って来なかったら帰る事にしている。
朝に張り込むのは一日しか出来なかった。
親に連絡がいっちゃって怒られちゃったし。
適当に気分が悪くなって駅で休んでたって言ったら信じてくれたけど、何回も出来ないもんね。
今日も、もうすぐ30分経つ。
会えないのかな?
目に涙が浮かんでくる。
何でこんなに頑張ってるのに上手く行かないんだろう。
頑張るって決めてるのに弱気な自分が少しずつ出てきてしまう。
最近は私の顔を見る度に、神志名君の足が早足になってるような気がするし。
仲良くなるのって難しいんだな。
もう帰ろうと顔を上げた所で、見た事のない女子が二人目の前に立っていた。
制服を見るとこの学校の女子二人だろうけど……
「貴女が最近神志名君に付きまとってるっていう噂の子ね」
長い髪の方が威圧的に言う。
「付きまとうだなんて、ただ神志名君とお友達になりたいだけです」
なんて酷い言い方。
まるで私がストーカーみたいじゃない。
「毎日毎日校門の前に居て、他の子達も迷惑してるのよ」
ショートカットの方が嫌そうに言う。
「他の子達って誰ですか?誰も私に何も言って来ないわよ。言いがかりをつけるのはやめてください」
自分も話しかけたいのに話しかけられる程自信がないからって、僻まないで欲しいわ。
実際に不思議なんだけど、神志名君に話しかけている女子は居ない。
みんな分をわきまえているのね。
「この子わかってないわよ」
「本当、嫌われてるの気づいてないのね」
二人にこれみよがしに溜息をつかれた。
何よ、馬鹿にしてるの!
「っていうか、何であんた達に命令されなきゃいけないの?」
「それは、私が神志名君ファンクラブ会員番号4番だからよ」
「同じく、私は会員番号10番」
ファンクラブ?
そういえば、誰かが言っていた気がするけど本当だったんだわ。
芸能人でもないただの学生にファンクラブが出来るなんて、本当に神志名君って凄い。
そんな人が私の彼氏になってくれるだなんて夢みたいだわ。
「貴女は違う高校だから知らないかもしれないけど、この高校では神志名君の生活に干渉しないように鑑賞する事に決まっているの」
「彼って本当に美しい顔をしているでしょ?でも彼の生活を邪魔して転校してしまったら損失と考えて、彼自身が望む意外の交流に制限をかけているの」
「時には邪魔者を牽制したりもするわ。でも、仕方ないわよね。みんなで平等に大切にするからこそ秩序が生まれ、神志名君が平和に高校生活が送れるのだから」
「貴女はそのルールから逸脱している。だから警告に来たのよ」
何よそれ。
神志名君との交流を制限するとか、本当に何様のつもり?
私との交流が嫌な訳ないじゃない。
「神志名君と私はお友達です」
「そう思ってるのは貴女だけじゃないの?」
「そんな事ないです」
「じゃあ貴女は神志名君から名前を呼ばれた事はある?」
思い返してみると、いつも神志名君は否定の言葉ばかりで私の名前を呼んだ事すらない。
そんな事ないわよね。
告白してきてくれた子の名前ぐらい覚えてくれてるわよね。
「神志名君にとって告白されるのなんていつもの事よ。空気みたいなもので覚えてもらえてないんじゃない?」
「そんな事にも気づいてないのかしら?私だったらすぐに気づくわよ」
「頭がお花畑だから気づかないのよ」
そんな事ない。って言いたいけど否定できない。
目に涙が溜まっていくが、こんな意地悪な人達に負けないんだから。
「確かに、まだ私はお友達じゃないかもしれないけど、これからお友達なれる可能性だってあるじゃない」
「ああそう。でも、もうここで待つのは止めてね」
「他の生徒からも邪魔だってクレームが来てるの」
「何であんた達がそんな事言うのよ。私がどこで神志名君を待とうが勝手でしょ!」
「何でって、私はこの高校の生徒会長だから」
長い髪の方が勝ち誇るように言う。
「私も同じく生徒会役員よ」
「生徒からのクレームを処理する権利があるの」
「分かりやすくいうと、みんな貴女の勝手な行動に迷惑してるって言ってるの。もちろん神志名君もね」
嘘よ、彼はそんな事言わないわ。
「最近職権を乱用しようとする馬鹿な人も居るから余計な心労を増やしたくないのよね」
「本当本当。神志名君の安寧が私達の安寧よね」
「という訳で、今度ここで待っていたら遠慮なく追い払うから」
「分かったらさっさと帰りなさい。もう神志名君は学校に居ないから待っていても無駄よ」
せせら笑うように言われて私は耐えきれずに走って帰った。
嘘よ、嘘よ。
神志名君が私の事を迷惑に思うはずないじゃない。
あの意地悪な人達が勝手に言っているだけよ。
ベッドに寝転びスンスン泣いた。
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