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夕ご飯も食べずに泣いているとアーシエル様からチャットが来ていた。
いつもの時間に来なかったから心配したようだ。
優しい。
私は今日あった事を全て話してしまっていた。
悲しくて悲しくて、誰かに慰めめてほしかった。
『そう、辛かったね』
『私、自信が無くなっちゃいそうです』
思わず弱気な発言が出てしまう。
私らしくなんて分かってるけど、無理だった。
『きっと、その女の子達は君に対して嫉妬してるんだよ』
『嫉妬?』
『自分より魅力的な子が好きな人に近づいたら、嫌な気持ちになるだろう?好きな人に話しかける勇気がないから君を攻撃したんだと思う』
確かに。
可愛い私が神志名君と付き合ったらあの子達は視界にすら入らないでしょうね。
それに、自信が無いから大勢で囃し立てるだけなんて、その方が神志名君の迷惑になるというのに分かっていない。
やっぱり、私が神志名君を救ってあげないと。
『君は望むがままにしていればいいんだよ』
『でも、学校に近づくなって。学校以外に会える場所も無いのに』
『なら、その女の子達を排除してしまえばいいんだよ』
排除。
その強い言葉に私は少し怯んだ。
でも、居なくならなければ進めないのであれば、受け入れなければならない。
これが優しい私に対する試練なのね。
『君が望むのならその方法を教えよう』
排除という強い言葉から、何か大変な事をするのかと思ったら全然大した事がなくて拍子抜けした。
アーシエル様が教えてくれたのは小学生の頃にやったお呪いみたいなものだった。
ふふ、気休めかもしれない。
それでも、私の事を考えてくれたと思うだけで嬉しくなった。
私には味方が沢山居るもの。
くよくよしてるなんて、らしくないわ。
私は言われた通りに可愛い便箋の一枚にあの二人組の事を書いた。
神志名君と接触するのに邪魔にならないようにしてほしいって。
そこに台所からとってきた塩を入れて包んで燃やした。
台所にあったパパのライターと灰皿を借りちゃったけど、返せば問題ないわよね。
そして、燃え残った灰は水に流すって言っていたから、トイレに流した。
もし効き目がなかったとしても、私の心は凄く軽くなった。
明日からまた頑張ろう。
次の日、ドキドキしながら校門の前で待っていたら、神志名君がいつもと同じ目付きの悪い男と一緒に校門から出てきた。
やっぱり私達って運命なのかもしれない。
いつもは合わない神志名君と私の目が合う。
その瞬間驚いたように神志名君の目が大きくなったのが分かる。
やっぱり私を待っていたのね。
期待を込めたように見つめると、彼はふわりと笑った。
その瞬間風が吹いた。
世界に私と神志名君の二人っきりになったように感じる。
「あ、あの」
真っ赤になって話しかける事も出来ないまま神志名君は通り過ぎていった。
我に返った時にはもう二人は見えなくなっていた。
もう香澄の馬鹿。
せっかくのチャンスだったのに。
でも、やっぱり神志名君が私の事を知らないっていうのはあの女の子達の嘘じゃない。
神志名君は私に向かって笑ってくれた。
蕩けるような笑みだった。
私には分かる。
あの目は、私の事が好きだって言っていたわ。
二人の女の子はやって来なかった。
やっぱりあの二人は私と神志名君の間を盛り上げるちょとしたスパイスだったね。
そんな試練に凹まされるだなんて、本当に私ってダメダメ。
アーシエル様が励ましてくれて良かった。
昨日の今日で来たらさすがに怒られるかもしれないって思ってたのにホッとしたと同時に、アーシエル様のお呪いに効果があったんだと驚いた。
昨日の二人は怖かったから、それだけでも安心した。
帰ってアーシエル様に報告したら、アーシエル様も喜んでくれた。
後は神志名君に会うだけだわ。
気合を入れた私とは反対に神志名君に会える事はなかった。
そんなに早く帰ってるのかな?
私は思い切って午後の授業を休んで待ってみたけど、姿を見かけなかった。
せっかく距離が近づいたと思ったのに、その日から神志名君に会う事すら出来なかった。
仲良くなった運動部の人によると、神志名君は学校にも来ていないらしい。
何故来て居ないのかを聞いてもモゴモゴして教えてくれない。
嫌だけど、心配だから勇気を振り絞る事にする。
神志名君に勘違いされたら嫌だな。
でも、私の心は貴方にだけ。
ただ会えないから話しかけただけなの。
誠心誠意説明すれば分かってくれるわよね。
だって、神志名君は私の事が好きなんだから。
「あの……」
私は勇気を出して神志名君と歩いていた目付きの悪い男に話しかけてみた。
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