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油断をしていたのかもしれない。
学校からは離れていたし、ここは繁華街夜の店ばかりが並ぶ繁華街だったし、学生が立ち寄る場所ではない。
まして私も普段は着ないワンピースでメイクも若めに盛っていた。
いつも適当に着ているジャージとは違う。
まだ28歳だもの。
まだまだオシャレだってしたい。
休みの日ぐらいにしか好きな格好が出来ないのだから、それは悪くない。
ただ、そこを生徒に見られてしまうとは思っていなかった。
彼は私と視線があったかと思うと、すぐに視線を反らして歩いていってしまった。
「琴、どうした?早く飯でも食いに行こうぜ」
いきなり立ち止まった私を不審に思ったのか、正人が不機嫌そうに言う。
相変わらず自分勝手な男。
だから別れたとは思わないのかしら。
「ごめんなさい。久しぶりだったから、ちょっと疲れちゃって」
「そうか、そんなに良かったか」
甘えるような言葉に正人は嬉しそうに笑う。
本当に単純な男。
「ええ。だから今日はもう帰るわ」
さりげなく腕を放しながら告げる。
「なあ、また会えるか?やっぱり俺達体の相性ばっちりだっただろ。俺も今彼女居ないし」
早く帰りたいって思ってるのに、本当に空気の読めない男。
聞けば仕事もまた変えたと言っていた。
将来性のない男。
とっとと別れて正解だったわ。
「後で連絡するわ」
無理矢理作った笑顔で何とか正人から離れ、混乱した頭のまま早足で駅へと向かう。
不審に思ったかもしれない?
でも、もう関係ないわ。
二度と会う事も無いんだから。
真っ白になった頭で部屋に辿り着いた私は、今日の為に着たワンピースをすぐに脱ぎ、シワになるのも構わずに洗濯機にそのまま放り込んだ。
ちょっと高かったのに、もう二度と着る事はないだろう。
そして、部屋着に着替えてから布団の中に潜り込んだ。
誰にも私の姿を見られたくなんてなかった。
私はスマホの中に入っている正人のアドレスをブロックしてから、履歴も何もかもを全て消す。
無かった事にする。
「私は、今日誰にも会っていない」
言い聞かせるように呟いてみたが、不安は膨らむばかりだ。
見られた。
どうしよう。
まさかあんな所に生徒が居るだなんて思いもしなかった。
何であんな所に居たのかしら?
誰にも会わないと思っていたのに。
頭の中が理不尽の怒りに埋め尽くされる。
やっぱり正人になんて会わなければ良かった。
連絡が来た時には今更?って思ったけど指が勝手に返信してしまっていた。
元々別れるつもりではあったけど、正人から言われた事に失望した気持ちはある。
それでも会ったのは、別れを切り出した正人を見返してやろうと思ったから。
あの頃とは違う幸せな自分を見せてやろうとノコノコと行ってしまった。
案の定正人は綺麗になったと褒めてくれた。
久しぶりの雄一以外の男に求められた事に浮かれていたのかもしれない。
そのまま前と同じようにホテルについていってしまった。
雄一は忙しくて最近デートなんて出来てなかったし、久しぶりのセックスに浮かれていた。
なんて浅はかな事をしてしまったんだろう。
この事をもし雄一が知ったら、職場に知られたら。
最悪な事態を考えてしまい、振り払うように頭を振る。
大丈夫、大丈夫。
きっと私だと分かっていないわ。
でも、もし気づかれていたら……
やっと幸せが掴めるというのに、こんな所で躓く訳には行かない。
確か彼は五月という中途半端な時期に来た転入生だったはず。
女子に物凄い人気があってファンクラブまであると聞いた事があるわ。
授業で見かけた事はあるかもしれないけど、興味が無くてあまり記憶に残っていない。
私が覚えていないんだから、目が合ったのも気の所為だったかもしれない。
それに、もしかしてあの子も誰かとセックスをした帰りだったのかもしれない。
じゃないと、あんな繁華街を歩いていた事に理由がつかないわ。
見られて不味いのは私だけじゃなくて、あの子も同じなはず。
そう思うと少し安心した。
でも、きちんと口止めはしないと。
確か彼の名前は……。
そう、神志名美月。
私はこの夜いつまでも眠る事が出来なかった。
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