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その人を見た瞬間、私の時は止まった。
まるで世界が二人っきりになったかのようで。
彼はとても綺麗な栗色の髪をしていたわ。
そして友人と楽しそうに話す笑顔。
誰よりも綺麗だった。
彼を見ただけで心臓が高鳴り顔が赤くなる。
その顔を一瞬でも私に向けたほしかったのに、彼は私に気づかずに目の前を通り過ぎていってしまった。
もし、もしこれが恋だとしたら。
今までしていたのは恋じゃなくて、一体何だったの?
双葉香澄、17歳。
今日恋をしました。
「香澄、待たせたか?」
私が初めての恋に胸を高鳴らせているというのに、無粋な声。
改めて遼介君を眺めてみるが、月と落ち葉くらいの差がある。
私、本当に勘違いしていたんだわ、恥ずかしい。
思わず溜息をついてしまうと遼介君が慌てて「ごめん、疲れた?」と気を使ってくるから慌てて大丈夫という。
まずは情報を得ないと。
最後にこれくらいは役に立ってもらわないと。
私の視線を追うように遼介君が外へと目を向ける。
「ああ、神志名と柊か。相変わらず遠巻きにされてるな」
苦笑するように遼介君は言うが、本当に気が利かない。
そんなんじゃ、どっちがどっちか分からないじゃない。
「知り合いなの?」
「知り合いっていう訳じゃないけど、有名人だな。あっちの綺麗な顔した方が神志名で、目付きが悪い眼鏡が柊だ」
「へえー」
神志名君ね。
名前も素敵。
「神志名は特に女子に人気があるな。転校してきたばっかだっていうのに学校の女子の大半が奴に惚れてる」
「凄いカッコいいよね、彼女とか居るのかな?」
「止めとけば。あいつファンクラブとかがあるからさ、抜け駆けされたら制裁されるって噂だぞ。それよりさ、今日はどこ行く?」
もう、馴れ馴れしいわね。
私は遼介君の腕を振り払った。
何故かびっくりしたような顔をされた。
「私、神志名君とお友達になりたいな」
「え、俺は?」
「今日で別れましょ。じゃあね」
早く、早く追いかけないと見失っちゃうわ。
まだ校門を出てからそんなに経っていないから追いつけるはずだわ。
必死に走っていると、すぐに彼の背中が見える。
「待って、待ってください!」
呼びかけても二人が足を止める事はない。
何でよ、聞こえてないの?
私は二人を追い越し進行方向に立ち塞がり息を整える。
「柊の知り合い?」
「知らん」
頭上で交わされる会話からして、足を止めてくれてるわね。
私は深呼吸して、最高に可愛く見える上目遣いで二人を見上げる。
さあ、勇気を出すのよ、香澄。
「神志名君ですよね。好きです、付き合ってください」
「ごめんなさい」
神志名君は私の渾身の告白をペコリと頭を下げただけで速攻で断ってきた。
「え、あの」
あまりにも綺麗な動作に戸惑っている間に、二人は私を置いて歩き始めてしまう。
「やっぱり美月の客じゃないか」
「ごめんごめん」
私の存在なんて無かった事のようにして二人は歩いていってしまう。
えーっ、嘘でしょ?
帰ってからも私のフワフワした気分は収まらなかった。
今日サヨナラした人から大量の着信が来てたからブロックする。
同じ学校だし、彼氏が居るなんて勘違いさせたら嫌だもんね。
私はそのまま最近ハマっている占いのサイトを開く。
占いって言っても信じてる訳じゃないの。
だって当たってるかどうかなんて分からないじゃない。
ただ悩みを聞いてもらったりしてるだけ。
それに、アーシエル様カッコいいんだもん。
顔は分からないけど、きっとイケメン。
包容力もあるし、私の事否定しないし、大人の男の人って感じ。
ただ不思議なのは、いつアクセスしてもアーシエル様とチャットが繋がるのよね。
もしかして、アーシエル様って複数いるのかしら?
でもいいの。
無料だし。
アーシエル様はアーシエル様だし。
そこに居るアーシエル様に今日合った事を話した。
『好きな人が出来ました』
『香澄ちゃん、彼氏が出来たばかりじゃなかったっけ?』
『ううん、あの人は運命じゃなかったの。私の運命の人は他に居たみたい』
『そうなんだ』
『どうすればいいと思います、アーシエル様?』
『仕方ない子だね。うーん、まず、彼とは初対面なんだよね?』
『はい。でも、満更でもないと思います。私可愛いですし』
『香澄ちゃんが可愛いのは分かってるよ』
当然よね。
『でも、男っていきなりグイグイ来られると恥ずかしがって、心にもない事を言ったりしちゃうんだよね』
そうだわ、確かあの時隣に友達が居たわ。
彼がいたから恥ずかしがっちゃったのね。
本当に照れ屋なんだから。
心まで優しいなんて、本当に王子様だわ。
『それに、やっぱり付き合う前には、人となりを知らないとね。香澄ちゃんも知らない人と付き合うの嫌でしょ?』
『そうね。明日から彼の友達になれるように頑張ってみるわ。ありがとう、アーシエル様』
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